『新地の昔話』~友人から届いた手紙~(2011_09月号)

アウトソーシング事業部 井上日登美

先日、私の大好きな友人の村上美保子さんから『新地の昔話』という本が送られてきました。村上さんは福島県相馬市の北隣にある海辺の町、新地町で120年以上続いた老舗旅館「朝日館」の女将で、地元で語り継がれている民話の“語り部”でした。村上さんはご無事でしたが、「朝日館」も新地の町も、3月11日、すべてが大津波に流されてしまいました。

『新地の昔話』は村上さんたち語り部が、昔からの口伝えの話しを冊子にしたいと、一年かけて書いた民話です。原稿は、奇しくも津波に襲われる数日前に出版社に送っていて、難を逃れたそうです。…お地蔵様、神社、大銀杏、地元の山や川…地名の由来など、慣れ親しんだ土地には人々に慕われ伝えられてきた民話が沢山ありました。震災がおきて、とても、まえがきやあとがきを書ける状況ではなくなり、本には代わりに発行人の方の言葉が添えられていました。

― 遠い昔、人々は田畑を耕し魚を追い、お天道様に感謝し雨乞いをして、蛇をおそれきつねに化かされ、自然とともに泣いたり笑ったり、しっかりと自らの力で立ちながら、皆でつながり生きてきた…。 今、人はとかく遠くを、大きなものを見つめ、欲っしがちだけれど、ほんとうに大切なものはなんなのか、ほんとうの幸せとはなんなのか。― 

村上さんは今、仮設住宅に暮らしながら様々なイベントをして、引きこもっているお年寄りを引っ張り出し、放射能騒ぎのため外で遊べない子供達を元気に出来たらと、あれこれ思案中です。送られてきた本には、仮設住宅の通りで図書館、洋服屋さん、かき氷屋さん、八百屋さんなど「タウンマーケット」を開催する子供店長たちの写真と、「すべてを失ったと一時は落胆しておりました。しかし多くの方から応援いただき一番大事なものがいっぱい手の中に残っていると気がつきました。そのことが立ち上がる大きな力となりました。」と書かれた手紙が同封されていました。

『新地の昔話』
編:新地語ってみっ会
出版:新日本文芸協会