フロー体験 喜びの現象学(2013_3月号)

フロー体験 喜びの現象学(2013_3月号)

総務部  柏倉 佑美

皆さんは子どもの頃、好きな遊びに熱中した経験はありませんか?私は子どもの頃絵を描くのが好きで、時が経つのも忘れ一日中描いていたことがよくありました。しかし成長するにつれ、何も考えずただその事だけに没頭する時間は少なくなっていきました。

そして、ふと何の制約もない自由な時間の中に投げ出されたとき、私は自分が何をしたらいいのか分からずテレビやインターネットなどで時間を潰してしまいがちです。それは心理的無秩序がもたらす不安感を埋めるための最も手っ取り早い方法であり、与えられることに慣れすぎて自ら意識を秩序づけることができないことの証明でもありました。

物事の結果や周囲の評価、日々起こり得る煩雑なことがらに心乱されることなく、ただその行為のためだけに何かをするということの難しさを、私たちは大人になって初めて知るのではないでしょうか。それは自分の欲求や願望を社会から求められているであろうことに置き換え、常にその目標に自らの存在価値を見出してきたことの代償のような気がします。

本書は、アメリカの心理学者M・チクセントミハイが、「フロー体験」と呼ばれる幸福や創造性など、人間の体験の能動的側面についての研究成果を一般向けに要約したものです。「フロー体験」とは、より多くの心理的エネルギーが個人の目標達成のために投射されている状態のことをいい、調査対象者達が、自分が最高の状態の時の感覚を「流れている[floating]ような感じだった」と表現したことに由来しています。フロー体験を構成する

要素として、以下の8つが挙げられています。

1.達成できる見通しのある課題に取り組んでいる。
2.深く集中している。
3.明確な目標とルールがある。
4.自分が適切に振る舞っているかどうかについて、直接的なフィードバックがある。
5.その行為と無関係なことに注意を割かれることがなく、深い没入状態にある。
6.その状況や課題を自分でコントロールしている感覚がある。
7.自己についての意識が喪失する。
8.長い時間が瞬く間に過ぎ去るように、時間の感覚が歪められる。

この体験は他に依存することのない内発的報酬をもたらすため、このフローをできるだけ多く体験できるように自らの意識を組織することで生活の質を向上させることができると著者は述べています。

私たちは何かをする際、その労力の代償としての報酬を期待します。しかし、そうして与えられた受動的な報酬が必ずしも私たちを幸福にするとは限りません。幸福の価値観とは万人に共通する絶対的なものでないからです。しかし子どもの頃、何にもとらわれることなく好きなことに没頭していた時のような充足感は、何物にも代えがたい喜びを与えてくれます。この「内発的報酬」こそが、幸福の本質であり、外的な力に頼ることなくその時その時の出来事の中に喜びを見出す能力を身に着けることがいかに重要かを、本書は気づかせてくれました。

 

〈本書のご案内〉
『フロー体験 喜びの現象学』 著者: M. チクセントミハイ 出版社: 世界思想社 (1996/08)