夕張市の今(2016_8月号)

夕張市の今(2016_8月号)

公認会計士・税理士 田牧 大祐

現在進められている地方自治体への複式簿記の導入、公会計制度改革は、夕張市の財政破綻により始まりました。地方自治体の公会計の支援をしている身として、国内1800地方自治体で唯一の財政再建団体である夕張市の財政再建計画の取組みは、かねてより強い興味の対象であり、そして先日、その夕張市を訪ねる機会がありました。前日、夜のススキノにて複数の人に夕張に行くことを話すと、「行っても何にもないよ」、「めずらしいね、夕張に行くなんて」など、良い評判が皆無の中、夕張へ向かいました。

夕張市は、炭鉱の町として栄え、昭和35年に最大人口11万6千人にまでなりましたが、石炭から石油エネルギー時代への移り変わりにより、昭和40年代、市内の多数の炭鉱が閉鎖となり、人口が大幅に減少しました。その後、北海道炭鉱汽船㈱の炭鉱閉鎖費用等を自治体が負担したという特殊事情や、炭鉱閉鎖後に観光施設等ハコモノを多数作ったことが原因となり、平成19年3月6日財政破綻しました。財政破綻した年の人口が1万2千人でしたが、現在は8千人台と、財政破綻後の8年で人口は3割近く減少しています。

人口減少の背景には、税負担(市民税、固定資産税、軽自動車税等)の増加、上下水道料金等の公共サービスの料金アップ(上水道料金は札幌市の2.1倍、下水道料金は同3.6倍)、図書館等の社会教育施設の廃止、集会所の閉鎖、ごみ収集日の減少(資源ごみは月2回、収集しないごみもあり)、公園閉鎖等、金額的負担の増加に反して、行政サービスが大幅に低下していることがあるでしょう。財政再建計画は、見せしめ的内容にも感じられ、廃止した行政サービスが多岐にわたり、自治体の体をなしていないとも受け取れます。

市内で車を走らせると、窓ガラスが割れ、黒いビニールを貼った体育施設、閉鎖中の保育園などが見られ、街の景観を悪くしています。また、雪の重みで壊れた美術館を2年間取壊しできなかったという時期もありました。これらは、市債の償還に向けた行政コストの大幅なカットが求められるとともに、財政再建団体である夕張市の予算は総務大臣の同意が必要であり、給与改定から鉛筆1本の購入まで大臣の同意が必要という事情もあるでしょう。夕張市民の方の「結婚したら市外に引っ越して行くんだよ」、「夕張を出られる人は出て行ったよ」との話も違和感はありません。年代別人口動態では20代、30代、4歳児以下の流出が突出しています。

一方、道路沿いに見える公営住宅の多さも目を引きます。いたるところに公営住宅があり、その多さに驚かされます。たまたま道路沿いに多かったのかと思い、後日調べたところ、旧炭鉱会社が所有していた住宅の多くを夕張市で引き取り、これを公営住宅としたという経緯があったようです。住宅比率を見ると、北海道全体における公営住宅の比率が7.5%に対して、夕張市は実に市民の47.4%が公営住宅に住んでいるという高い比率になっています。一般的に公営住宅に入居する要件として収入基準等がありますが、夕張市の場合、通常の民間賃貸住宅と同程度の貸与も行っているためです。夕張市の世帯数5179世帯数に対して、現在、公営住宅数は3450戸(募集停止も含む)もあり、大幅に余っています。

夕張市の事例は、多くの教訓を与えてくれています。
①人口が増えたら、それに見合う施設を整備することになるが、その意味は、人口を同程度長期間にわたり維持することも同時に求められるということ。人口に見合わない、使わない施設を設置するということは、将来世代に不要な維持費を負担させるということ。
②自治体は事業会社の産業を介して、経済の潮流、世の中の流れに密接に係わっているということ。特定の産業に依存している企業城下町の自治体のリスクが感じられる。アメリカのデトロイト市もその一例(夕張市の場合、石炭増産政策という国策に起因したともいえる)。
③ハコモノは、コンクリートが良いとは限らない。耐用年数が長いというのは、維持期間も長期となるため、設備の配置期間を長期拘束することになり、それだけコストがかかるということ。
④使わない施設は景観としても、安全面を考えても取壊しが必要。すなわち、建設と同時に取壊のコストも考えておく必要があるということ。
⑤行政サービスの低下により、自治体から簡単に人が流出するということ。その場合、外部に引っ越せる世代から出て行くということ。
⑥利用者の年齢構成や将来の人口推計を考慮して、提供する公共サービスの内容や施設の適正な配置、必要とされる施設をどういった構造で、どのくらいの期間維持する必要があるか、より詳細で緻密な検討が必要になるということ。

これらの教訓から、自治体の運営は、将来を見据えた相当高い経営能力が求められることがわかります。
また、公共サービスの提供は、まちづくりという将来設計に密接に係わっており、住民の意見も必要となります。住民に必要と求められているサービスや施設が、30年後も求められているのか、あるいは30年後、次世代に大きな負担を残さないために、現在少しの不便は許容すべきか。

最後に、夕張市は面白い前向きな取組も実施しているので紹介します。
①公衆トイレネーミングライツ(施設命名権)の募集。現在LIXILがスポンサー。
②閉鎖小学校が郵便局に。校門、校章は元の名前の「緑小学校」のまま。

今回の訪問は、将来のこどもたちのため、行政サービスを持続可能とするため、行政の情報発信と住民の理解と協力、将来像を共有することが必要と考えさせられる貴重な機会となりました。