運命と立命(2014_8月号)

あさひグループ代表 柴田健一運命と立命(2014_8月号)

去る6月17日(火)、稲盛和夫京セラ名誉会長による県民フォーラムが山形市で開催された。稲盛氏は京セラを立ち上げた頃、「私は会社を経営しているけれども、うまく経営していけるだろうか。どうすれば倒産という悲劇から免れるだろうか。どうすれば従業員を幸福に出来るだろうか。」と思いながら日々必死に努力を続けていたという。

そのなかで、「個々人の人生には既に決められた運命というものがあり、それを伝って人生を生きていくのだ」と思うようになる。同時に人間はその運命というものに翻弄されながら、様々なことに遭遇し、その遭遇する過程の中で善きことを思い、善きことを実行すると、それによって人生が良い方向に変わっていく。つまり世の中には「因果の法則」というものがあるということを稲盛氏は東洋思想家の安岡正篤(やすおかまさひろ)氏の著書『運命と立命』に出合ったことで信じるようになったという。

私の家は曹洞宗なのだが、お経のなかにも「積善の家に余慶あり」という一節があり、「善を積んだ家は必ずその余慶が後々まで及んで、子孫が栄える」という「因果の法則」が述べられている。

私たちも、善きことを思い善きことを実行する、つまり、すべてのことに感謝し、慈しみ、謙虚で、正直に、前向きに、明るく努力することによって、自身の「運命」を良い方に変えることができる。そして、それこそが人生の目的だと稲盛氏はいうのである。

2010年1月、稲盛氏は政府からの再三の要請を受け、健康を心配して周囲が反対するなか日本航空の二次破綻による日本経済への影響を考え、「誰がやっても立て直せない」と言われたJALの再建を無給で引き受けることになる。そして、「日本航空は、株主の為ではなく、まして経営者の為でもなく、全社員の物心両面の幸福のためにある」と宣言。社員たちには航空運輸業も結局は「究極のサービス産業」だとして、直接現場に出かけ、空港の受付、機内のキャビン・アテンダント、操縦士、地上勤務の整備、グランドハンドリングといった人たちに、一人ひとりが人間として「善きこと」を思い、「善きこと」を実行してくれるよう何度も語りかけるのである。

やがて、人間として何が正しいかを基本とした共通の価値観を持ったJALの社員たちはお客様のことを第一に考え、心のこもったサービスを自発的に提供するようになる。日本航空は再建初年度1,800億円、2年目には2,000億円超の営業利益を達成し、全世界の航空会社の利益合計額の約半分を日本航空1社で稼ぎ出すことになる。

善きことを思い善きことを実行することにより人の運命を変えるという「因果の法則」は企業の運命をも変えるといえるのだろう。