税務調査の日常 その2(2016_10月号)

税務調査の日常その2(2016_10月号)

公認会計士・税理士  田牧 大祐

秋は税務調査がもっとも多い時期です。国税庁で公表している法人実調率※1(法人税申告件数に対して、実地調査を行った法人件数の割合)は、長らく4%前後で推移していましたが、最近は3%に低下しています。平均すると20年~30年に1回、税務調査がくるという計算になります。しかし、3年で調査が来たという会社もあれば、20年以上来ていないという会社もあります。調査が頻繁にある会社と長らくない会社の違いは何でしょうか。

職員A「田牧さん、税務署からS社の調査に行きたいという連絡がありました。S社に連絡しましたら、15年ぶりの調査だそうです。社長が、何もないと思うけど何か問題があったのかと心配していました。」

田牧  「Aくん、調査先がどうやって選ばれているか知ってる?KSKシステム※2で対象を抽出、統括官が選定するんだけど、KSKシステムで、過去の年度と比較して売上や利益率が大きく増減したり、同業他社との利益率が大きく違ったりといった指標の違いで抽出されるんだよね。S社はどう?」

職員A「そういえば、S社はずっと黒字会社でしたが、昨年はメインの発注先の業務が大きく減少して、赤字でした。」

田牧  「それで選ばれたんだね。S社の社長に教えてあげて。」

職員A「はい、わかりました。でもどうして15年も調査に来なかったんですかね。」

田牧  「それは、S社は前回の調査で申告是認 ※3(以下、是認)だったんじゃないかな。前回の調査ではきっと何も無かったんだと思うよ。」

職員A「はい、会長が、前回調査は何も無かったって言っていました。」

田牧 「調査官の評価は、増差をいくらとったか、重加算税をいくら取れたかなんだけど、是認は、何も無かったということで、統括官は選定能力なし、調査官は調査能力無し、という評価になるんだよね。前回是認の会社は、統括官は選びにくいよね。長く調査に来ない会社になりたければ、是認を取ることだね。」

職員A「先日の調査で是認だったT社のことBくんから聞いたんですけど、調査官が最後10万円の在庫計上を修正するよう強く要請していたのを、田牧さんが是認にこだわって、正当性を主張して修正しなかったって言っていました。在庫の修正は、翌年その分税金減額になるので行って来いですけど、是認にしたというのは、調査が今後来にくいという意味では大きな違いだったんですね。」

田牧  「そう、T社の納税負担の意味では少しの差だけど、大きな違いだね。もちろん、間違いがあれば、修正しないといけないよ。S社は経理の人がしっかりしているし、Aくんが担当だし、安心だね。」

※1 実調率 個人の実調率は1%前後で推移しています。こちらは100年に1回調査が来るという割合です。但し、個人の場合、お尋ね文書や電話などによる簡易な接触が実地調査の10倍以上行われています。
※2 KSKシステム 国税総合管理システムの略で、全国524の税務署と12の国税局をネットワークで結び、申告、納税等の情報を一元管理しています。
※3 申告是認 「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」により、調査税目の調査対象年度において、問題がなかった場合に通知されます。国税庁により公表されている平成26年度の法人税等の調査実績によると、是認割合は26.3%でした(91千件の法人税調査に対して、21千件が是認、70千件が非違)。是認は4社に1社、残りの3社には非違があったということになります。
 個人の実調率は1%と低いですが、このうち是認割合は14%と法人よりも悪く、7件に6件は非違があったことになります。

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