自治体の財務書類開示へ(2018年_5月号)

公認会計士・税理士 田牧 大祐

平成26年5月23日の総務大臣通知により、全国すべての地方公共団体(以下、自治体)に対して、平成29年度中に複式簿記による財務書類作成が要請され、先月3月末がその作成期限であった。

自治体の財務書類作成のスタートは、保有する固定資産の調査とその評価(金額情報)を行う固定資産台帳整備である。自治体に固定資産台帳がなかったことは、住民や企業からみれば、「固定資産税を課税しているのに、自分たちは無いの?」となるわけであるが、もともと、自治体は、年間の資金の収支による予算主義で動いており、固定資産台帳※1の整備の必要性はなかった。しかし、人口減少時代に突入し、税収の減少、インフラの更新等、このままでは将来の財政が立ち行かないことは明らかであり、自治体もストック情報として資産、負債を認識し、コスト削減等の対策と合わせて、第二の夕張をつくらないよう自治体の財政状態を見える化しなければならないという必要性に迫られたのが今回の財務書類作成が要請された経緯である。

すでに財務書類を開示している自治体もあるので、ぜひ、ご自身の住む自治体の情報は見ていただきたい。
財務書類と合わせて各種指標も開示されており、特徴的な指標を紹介する。

・資産老朽化率(減価償却累計額÷減価償却対象固定資産取得価額)
保有する固定資産がどの程度償却が進んでいるか、老朽化しているかの指標で、通常は60%前後となっている。この意味は、今後20年以内に多くの固定資産が更新時期を迎えることを意味している。

・純資産比率(純資産÷資産合計)
世代間公平性をあらわす指標である(負債は将来世代が負担するという意味)。この指標は通常、60%~70%台である。これは現在保有する資産は、現役世代も含めたこれまでの世代の負担や国からの補助金による固定資産が過半であることを意味する。

・基礎的財政収支(地方債の発行と償還を除いた収支)
多くの自治体は、収入の6割から8割を地方交付税(地方財政のバランスをとるための調整)や国や県からの補助金に依存しているが、地方交付税も削減傾向であり、基礎的財政収支はマイナスであることが多い。

この3つの指標と将来の生産年齢人口の減少から見て取れることは、①身の丈(将来の見通し)に合わない資産(投資)を、②将来世代に贈り物として提供してしまい、③多くの固定資産の更新時期が20年以内に来るが、④地方交付税と国や県からの補助金が頼みの綱であるが財源不足で削減傾向であり、財政の見通しは悪い、である。
多くの自治体が解決策を模索している。ふるさと納税などで自主財源確保の取組やコスト削減を進めているが、国の地方創生政策の効果もいまだ不明であり妙案はない。現役世代の快適さの追求や投資が、将来世代への過剰な贈り物となり、結果将来世代の負担を大きくしているという反省、受益者負担の理解、そして不便の許容(更新しない公共施設の選択※2)がまずはスタートと考える。

※1道路台帳や建物台帳、土地台帳等、現物管理のための公有財産台帳はあるが、これに金額に関する情報は基本的に入っていない。
※2橋梁等、一部通行止めとして更新しない自治体も出てきている。

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