特定社会保険労務士 今野 佳世子
5月は病気休職に関連するご相談が集中しました。今回は、私傷病による休職制度について取り上げます。
1 休職制度の意義
雇用契約どおりの労務が提供できない状態であれば、契約の解除(解雇など)とせざるを得ない場合もあります。しかし、一時的な理由で就労できない従業員をすぐに退職させてしまうと、せっかくコストと時間をかけて教育・訓練した従業員を失うことになるため、一定期間、復帰を待つというのが休職制度です。その意味で、勤続年数に応じて休職可能な期間の長さを設定することには合理性があります。勤続○年以上など、休職制度が適用される対象を限定する規定方法もあります。
2 休職制度の設計
休職制度は、法律に根拠がないので設けなくてもよく、内容も企業が自由に設計できます。ただし、休職には一定期間就労できず収入が絶たれるという不利益ともいえる面があるので、休職を命じたい場合は、就業規則に根拠が必要です。休職制度がなければ単なる欠勤の連続であり、社会保険等の手続上は休職制度を適用したのと違いはありません。
最も大きな違いは、連続欠勤(=休職)の最長期間に区切りを付けられることです。誰をどれくらい待つことができるかを事業主の体力と考え方に基づいて設定します。休職期間中も社会保険料は免除ではありません。もし休職期間満了までに復帰できる状態に回復しなければ解雇ではなく「自然退職」とすることが多く、そのためには就業規則に明記しておかなければなりません。復職可否の判断は、本人と事業主との間にトラブルが発生しやすいものですので、規定は重要です。
3 定めるべき項目
① 期間の長さ
よくあるパターンは、1~2カ月の欠勤の後、休職を命じるとし、その期間は勤続年数に応じて差をつけているものです。復職した後、6カ月間など一定期間中に再度労務不能となった場合には休職期間を通算する制度は、最近多くみられる、うつなどのメンタルヘルス不全の場合に対応するために有効です。また休職期間の上限を設けていなかったり、会社の裁量で延長する可能性を残していたりする場合は、休職期間満了で退職としたときに、従業員側から休職期間延長を求める主張がなされて紛争に発展することがあるので、注意が必要です。
② 復職手続
就労可能な状態まで回復したかどうかは、主治医の判断から始まり、担当業務内容を考慮して事業主が最終的に判断します。本人は焦りから早期復帰を求めるかもしれませんが、不完全な状態で復帰して病状が悪化すれば再度休職をすることになり、本当の復帰がますます遅れます。また、事業主は従業員の心身の安全を図る安全配慮義務を果たしたか問われることにもなります。そのため、事業主が指定する医師の診断を受けさせることや、事業主と主治医との面談を可能にする規定をおき、復職について事業主が主体的に判断し、復帰させるにあたっての配慮が十分に出来る体制を整える必要があります。
ほかにも、休職期間中の療養経過報告義務など、定めておくとよい事項は様々あります。今一度見直しをされてはいかがでしょうか。