「ソニー再生」とリーダーシップ(2022年_3月号)

 

2018 年3月期、ソニーは7,348 億円の連結営業利益を上げ、20年振りに最高益を更新した。この時の社長は平井一夫氏57歳。平井氏がソニーの社長に就任する前年度2011 年3 月期の連結当期純利益は4,550 億円の赤字で4 年連続の赤字だった。平井氏はそこから6 年間で「ソニー再生」を実現した。

平井氏はエレクトロニクスこそがソニーの主流という時代に傍流も傍流、CBS との合弁子会社であるCBS ソニーに入社し音楽業界の仕事に従事した。数年後、帰国子女だった平井氏は社命でたったひとりのニューヨーク駐在員として渡米、ひょんなことからアメリカの事業会社であるソニー・コンピュータエンタテイメント・アメリカ(SCEA)でプレイステーションの販売を手伝うことになり出向。その後、SCEA の社長から「お前に任せる」と、経営者としては全く素人の平井氏(当時35 歳)が経営を任されることになる。前任の社長からは、リーダーに必要な資質は「方向性を決めること。そして責任をとること」だと教えられたという。この時、出向元のソニーミュージック(旧CBS ソニー)ではまだ係長の身分だった。

平井氏がまずやったことは、社員との1対1 のミーティングだった。当時のSCEA は徹底的な競争主義で、よく言えば実力主義だが、仲間同士で足を引っ張り合い、組織として機能していないどころか泥沼の状況だったという。ここで平井氏が貫いたことの一つが「つらい仕事こそリーダーがやる」ということだった。つらい仕事や嫌な仕事を人任せにするようなリーダーに、人はついてこない。もう一つの方針が「量は追わない」という量より質の路線を明確にしたことだった。こうしてSCEA はまともな会社へと変身し、親会社SCE( ソニー・コンピュータエンタテインメント) の記録的な利益の計上に貢献するまでになっていた。

SCE はプレイステーション2 の快進撃が続く一方、ゲーム機でも家電でもパソコンでもない、家庭用スーパーコンピュータを狙ったプレイステーション3の立ち上げの失敗で2,300 億円の赤
字を出してしまう。今度は、平井氏は親会社であるSCE の立て直しに社長として取り組むことになる。「プレイステーション3はコンピュ―タではない、ゲーム機である。SCE はゲームというエンタテイメントを提供する会社」と商品と会社のポジションを明確にし、「お客様に感動してもらう」ことが原点だということを基本に据えたのだった。
その後、平井氏はソニーの社長に抜擢されるのだが、平井氏は「リーダーがすべき6ヶ条」を次のように述べている。

(1)正しい人間になる…リーダーである前に一人の人間として正しい人間で在れ。肩書で仕事をするのではなく、人格で仕事をする。
(2)高いIQ を持ったマネジメントチームを組成する…社長一人で全部決めるのはムリ、やらない方がイイ。YES マンは不要。「違いますよね」という人が重要。「異見を求める」が平井氏の哲学だ。
(3)ミッション、ビジョン、バリューを定義する…ソニーは幅広いビジネスを手掛ける巨大企業だが、向いている方向がバラバラだったという。何を軸にすればいいのか議論百出の中から生まれたのが、ソニーが目指す姿としての「KANDO を届ける会社」だった。
(4)戦略立案…このステップは上記の3 つのステップの後におこなう。“ 正しい人間+正しい戦略” が成功への唯一のスタートラインだ。
(5)現場に行く…トップ自ら何度も現場に足を運び、ミッション、ビジョン、バリュー+戦略を社員に直説訴え、腹落ちしてもらう。エンジニア魂に火をつけ、社員を輝かせなければ製品やサービスを輝かせることはできない。
(6)後進に道を譲る… BCP(事業継続計画)の観点から、何年後に次のマネジメントに持って行くかロードマップを作っておく。

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