もっと社員を愛せ(2025年_1月号)

日本講演新聞は全国各地の講演会を取材して、前向きな記事だけを掲載するという 1 ケ月 4 回発行のユニークな新聞だ。2024年12月16日号に十勝バス株式会社の野村文吾社長の講演記事が載っていたので要約してお伝えしたい。

野村氏は大学卒業後 10 年ほどサラリーマンとして働いていたが、父が「経営するバス会社をたたむ」と言い出したので、働いていた会社を辞め父の会社に入社した。数年後、社長になったものの社員からの反発がすごく、逆風にさらされ野村氏の気持ちはなえ、腐っていったという。そんな時、夜の街でばったり会った同級生に「お前んとこの会社、潰れそうなんだってな」と言われ、「いやいや社員たちが悪いんだ。自分は一生懸命会社を立て直そうとしているけど社員たちがいうことを聞かないんだ」と言うと「だからお前はダメなんだ。お前は社員を愛していない。もっと社員を大切にしろ」と言われたという。

その後何度もそう言われ野村氏はそのたび反発したのだが、同級生から「どうすればお前は俺の言うことを信じてくれるのだ」と言われ、勢いで「土下座して頼むのならあんたの言うことを実行するよ」とこたえると同級生は「そうか」とその場に土下座しようとしたので、野村氏は慌てて制止し「分かった、分かった。やってみるから手をあげてくれ」と言い、「どうしてそんなに親身になってくれるんだ」と聞くと「人としてお前が心配なだけだ」と言う。そんな温かい言葉を掛けられたことはなく、気が付くと目からぽろぽろと涙がこぼれていたという。

翌日、社員たちに「今日から皆さんを大切にする。少しの間私を見ていてくれ」と頭を下げ、その日から毎日社員を愛することを考え、思いついたことはすぐ実行した。部下たちの態度も少し変わり始めた気がしたという。「愛する、大切にする」と心に決めたことで、すべての社員の個性を認め、受け入れられるようになり、それ以来、野村氏は何か悪いことが起きた時は「常に自分に原因がある」と捉えて解決策を考えるようになった。

そんな中、停留所の周辺の皆さんに営業をすることを考え、お宅や施設に一軒一軒訪問してお話を聞くことから始めようと社員に提案したのだが、社員たちは全員「やりたくない」という。
理由は 2 つあった。当時は厳しい経営状態であらゆる合理化を進めており、社員の心が荒んでいたのだ。また、バスの利用者が減少しているのを日々感じており「自分たちは求められていない」という思いを募らせていたのだった。そこで社長が率先して営業活動を実践したところ、どの訪問先でも話が盛り上がり、同行した者は「あれ?大丈夫なんだ」と安心し、「楽しそうだった」と報告したので、沢山のチームが営業に出かけるようになったという。

営業に出た時、お客様に「どうしてバスに乗って頂けないのですか?」と聞くと、「ん?そのバスってどこに行くの」と言われ、「目的別時刻表」を作り、バスがどの施設、どのスーパー、どの病院等を通って目的地に向かうかという「路線図」をみせながら、近隣の方々に説明して回ったところ利用者は 20%増え、こうした取組を 3路線で行い観光客にも利用してもらえるようになり売上は 60% 増えたという。これらの取組を地元新聞社が取り上げ、日経ビジネスが特集とし、NHK が特番を組み、やがて『黄色いバスの奇跡』という本になり、テレビ番組『アンビリバボー』にも出演したのだった。

何より一番変わったのは運転手さん達で、自信を取り戻しみんなにこやかな表情になったという。また今まで一度も来たことの無いお礼の手紙やメールなどお客様の喜びの声が届くようになった。

稲盛和夫氏は「事業の成果=考え方×熱意×能力」だという。また、経営者の仕事は「社員を幸せにすること」だともいう。野村氏はまさに「社員を愛する」ことにより、結果を得たと言えるのだろう。

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