監査1部 佐藤 司
対立はすべて取り除くことができる。
どんなに複雑に見える状況も、実は極めてシンプルである。
どんな状況でも著しく改善することができる。限界なんてない。
常にウィン-ウィンの解決策がある。
これらは2008年に出版されたエリヤフ・ゴールドラット著『The Choice(ザ・チョイス)』の中で、ゴールドラット博士の娘エフラットが、父との対話の中で理解していった言葉です。エフラットは、どのようにしたら利益を飛躍的に改善するアイデアが生まれるのか、その思考過程を父との対話やレポートを通して理解していきます。
ゴールドラット博士が実際にコンサルティングした案件として、スポーツ・アパレルメーカーの事例があげられています。
博士はまず、商品が品切れになるのは当たり前という企業側の常識がある中、品切れによる損失を認識させます。そして、シーズン前に市場予測を元に一度に大量の発注を行うという業界特有のやり方を、まず1カ月分の在庫を発注し、はじめの2週間で商品ごとの売れ行きを正確に把握、そして後は実際の販売量をもとに商品の在庫を補充するというやり方への変更を提案します。仕入先からは、仕入の総量が同じかそれ以上であれば以前と同じ単価での仕入が可能であることを確認し、また、発注から納品までのリードタイムが短縮可能であることも考慮しています。
Aという商品は“品切れ”、Bという商品は“売れ残り”という現象が共存している中で、その対立する二つのリスクを同時に解決することだけで、元の数倍もの純利益増加が見込まれることに、企業側は驚愕することになります。
販売量(MQ会計でいうQ)アップの戦略として、顧客数を増やすなどの単純な発想しか思い浮かばなかった私にとって、この事例は大きな衝撃でした。また、売れ残りが著しく減少することで、極端な割引販売も減少し、平均売上単価(P)アップの効果も得られています。
博士はものごとを飛躍的に改善する思考過程には、「現実は複雑と思っているため、根底の問題には気づかず、小さな問題ばかり解決しようとしてしまう」、「対立というものは避けようがなく、せいぜいできたとしても、その妥協点を探すぐらい」などの障壁(思い込み)があると指摘しています。そして、その障壁を取り除くには「ものごとはそもそもシンプルである」という考えと、「ウィン-ウィンの関係(一方だけが得をするのではなく、対立している双方が利益を得る解決策)を探す」ことが効果的と述べています。
私の身の回りでも根本の問題には気づかずに、うわべの小さな問題だけを解決しようとしていたことが実はよくあったのではないかと思います。ものごとはシンプルである、ウィン-ウィンの解決策が必ずある、という考えはとても共感することができ、今後新たな視点で物事を見るきっかけとなりました。