新型コロナウイルスによる世界各都市のロックダウンを経て、今、世界各国は経済活動の復帰を模索し始めている。そんな中で実体経済と株式市場は大きく乖離し、IMFが2020年の世界の成長率を△4.9%と予測し「大恐慌以来の景気悪化」としている一方、ハイテク株が多いナスダック総合株価指数は最高値を更新、日経平均株価も3月の底値から大幅に持ち直している。この現象を、株価は経済の先行指標であり株式市場が上昇基調に転じたということは、リセッションは終了し経済は既に底を打ったとみるエコノミストも多い。しかし、現在の株高は金融緩和と過剰流動性により生み出されたとみるのが妥当だろう。
リーマンショックが金融サイドから始まった経済危機であったのに対し、今回の危機は、実体経済から始まっており、その影響は直接的かつ強烈だ。観光、宿泊、飲食、エンターテイメント、(日配品、生活必需品を除く)流通、住宅関連など、日本のGDPの約7割を占める産業で多くの企業は売上高が半分以下になっており、政府の様々な支援策で一時しのぎをしているものの、瀕死の打撃を受けている。さらにいま、自動車、電化製品など耐久消費財や工作機械など製造業の受注額が半減しており、次の段階で多数の企業の倒産などにより金融危機にまで及ぶとしたら経済の破壊的収縮(恐慌)が起こる可能性が大だ。
経済危機下における戦略とは出来るだけ多くの手元資金を備えることだ。キャッシュ・リッチこそが万全の備えといえる。欧米では手元資金が多すぎるのは資金を有効に使用していないとしてM&Aの対象とされやすく、グローバル優良企業の手元資金でもせいぜい売上高の2~3か月分だが、日本では松下幸之助氏が唱えた「ダム式経営」という理念がある。非常時に備えて、あるいは現状を一新する新規事業に進出する場合等に備え、ダムがいつも一定の水を蓄えているように資金を貯えて余裕をもって経営をすべきだというのが松下氏の「ダム式経営」の考えだ。
「ダム式経営」に感銘を受けていた京セラ名誉会長の稲盛和夫氏に、「それではどのくらいの資金を貯えれば良いのか?」と質問した経営者がいたが、稲盛氏の「売上の2年分」との答えに愕然としたことがある。景気は循環するというのが経済の基本的事実であり、中小中堅企業の経営者の皆さんには不測の事態に備えてせめて「売上高の半年分」の手元資金を備えてほしいと思うのである。「ダム式経営」を実現する為には①まず「ダム式経営をする」と覚悟すること、②税金を払ってその残りをコツコツと蓄積すること、③遊休資産を抱え込まずに処分することに尽きる。そうすれば非常時にも社員に対し「わが社は大丈夫、心配不要。」と言えることになる。