新聞の購読者が10年後にはいなくなるという分析予測が衝撃をよんでいる。一世帯当たりの購読部数が20年前の約半分の0.6部と減少し続けており、人口推計による世帯数の減少と相まって2030年過ぎには新聞を購買する人はいなくなるという推計だ。実際にはゼロにはならないのだろうが、現在でも60歳以下の人達はおおよそ新聞を読まない。また、最近60代の女性たちが「テレビが面白くない」と話をしているのを立て続けに聞いたが、テレビの代わりにYouTubeを見ているのだという。しかし、マスコミの方達から危機感は伝わってこない。
それにしても日本の変化は緩慢だ。マーケティングの大家、フィリップ・コトラーは「デジタル化するか、さもなくば死だ」といっているが、米国の一部地区、中国の都市部、エストニアに代表される北欧都市でのデジタル化は凄まじい。すべてがオンラインでつながった世界のビジネスの在り方について書いた「アフターデジタル」(藤井保文、尾原和啓 共著 日経BP社)を読んでみた。
キャッシュレス決済の比率が諸外国で40%~60%に達しているのに対して日本では20%程度にとどまっているが、例えば、キャッシュレス化が進むことにより「あらゆる消費者の購買行動のデータが取れる」ようになり、「リアルの購買データがデジタル化される」ことになる。
アリババが運営する中国のスーパーマーケット「フーマー」では店舗の3Km圏内であれば30分以内に配送するという利便性が最大の特徴だが、フーマーでは実店舗に訪れた人も、オンラインユーザーも、アプリ経由のキャッシュレスで注文から購入までが完結する。そこで紹介されている商品はすべてAIでパーソナライズされており、ユーザーごとの詳細なデータを活用した個別化が実践されている。そして集められた膨大な購買データにより店舗ごとに商品棚のラインアップや在庫を変えており、売れ残りはほとんど出ない。例えば生鮮野菜なら、農家と情報を共有し、日々の収穫量や次に作付けする品目まで細かく調整するという。
とはいえ著者は①オンライン(リモート)とオフライン(リアル)は既に溶け合っており、ユーザーは状況ごとに一番便利な方法を選びたいだけ、②収集されたデータはフル活用して、顧客体験や製品として還元されなければならないとして、オンラインをベースとしつつ、リアルチャンネルをより深いコミュニケーションができる貴重な場と捉えている。つまり、個人との接点である「ハイタッチ」は感動と信頼をよび、複数人との接点である「ロータッチ」は心地よさや楽しさをよび、デジタル接点である「テックタッチ」は便利さ、お得さをよびそれぞれは相関関係にあるというのである。
中国の次世代EV(電気自動車)メーカーであるNIO(ニオ)は、価格はテスラの半額程度の600万~700万円で自動運転やAIの導入をおこない注目を集めているが、「テスラは車の鍵を渡すまでが仕事だが、NIOは鍵を渡してからが仕事だ」という。その主なサービスは次の4つだ。①充電は電池パックごと交換し3分で終わる。②年間23万円で修理、保険、Wi-Fi ,空港の駐車料無料等のサービスが付く。③会員制ラウンジでは、カフェ、図書館、ベビーシッター、イベント(英会話、ヨガ教室等)が常設されている。④SNS機能により投稿したり、商品を購入したり、イベントの申し込みができる。など顧客接点により関係性を深めている。
どうも中国政府の強気の姿勢は、GDPが世界第2位ということだけではなく、デジタル化によって世界をリードしているという自負もあるようだ。山形県でもAI導入・活用を加速させることを目的に2019年より「AIトップエンジニア養成講座」を開講し、「E(エンジニア)資格」の合格者を県内企業に派遣している。費用の3分の2を県が負担することになっており、利用することをお勧めしたい。