ホンダの神髄(2021年_12月号)

 1960年代、旧通産省は、当時20社近くあったメーカーの乱立を防ぎ、国際競争力をつけるために「日本の乗用車メーカーはトヨタと日産だけでいい」と自動車業界の再編案を打ち出した。これに「俺にはクルマを作る権利がある。自由競争こそが産業を育てるんだ!」と真正面から反対したのがホンダの創業者、本田宗一郎氏だった。
 以来、ホンダは、大気汚染が深刻だったアメリカで施行された排ガス規制法案(マスキー法)を、世界中のメーカーが規制内容を達成するのは不可能といわれる中、CVCC エンジンによって見事一番乗りでクリア。その後も、二足歩行ロボット “アシモ” の制作、日本初のエアバックの量産、そして今や小型ジェットカテゴリーで世界1位の販売台数を達成している“ホンダジェット” などなど、独創的な製品を次々と造り上げている。

 『ホンダイノベーションの神髄』の著者で、かつて主プロジェクト・リーダーとしてホンダのエアバックを開発した小林三郎氏は、ホンダのイノベーションに関して「その秘訣は何か?」と聞かれると「ホンダには哲学があるから」と答える。哲学がしっかりしていると基本がぶれない。背骨がビシッと通るのだという。
 ホンダの哲学は「3つの喜び」と「人間尊重」に集約される。本田宗一郎氏が掲げた「3つの喜び」とは、➀作る喜び…独自のアイデアで文化社会に貢献する技術者の喜び、➁売る喜び…代理店、販売店などがその製品を扱うことに誇りを持ち、販売することの喜び、➂買う喜び…日常、その製品を使用し「ああ、この商品を買ってよかった」という購買者の喜びである。中でも本田宗一郎氏は「買って喜ぶ」を最も重要と考えていた。
 本田宗一郎氏は「素人に分かりやすく説明できないようじゃお前は分かっていない」「これが本当にお客様の価値だと思っているのか」と涙を流しながら殴りつけることもあったという。
 一方、「人間尊重」は本田宗一郎氏が初代副社長となった藤沢武夫氏と出会ったときに1週間語り明かし、決めたという。「ムダなやつは一人もいない。得手をやらせれば苦労を厭わず向上心が出てきて頑張り、本人は幸せなんだ」という。ホンダの「人間尊重」とは、「自律」した個人が「平等」な立場でお互いを「尊重」することだ。

 ホンダは新商品であれ、新技術であれ、「コンセプト」を決めることを最大限重要視している。ホンダにおける「コンセプト」を、前述した小林三郎氏は「お客様の価値観に基づき、ユニークな視点で捉えたモノ事の本質」と定義している。「お客様の価値観」は つの喜びの「買う喜び」を体現している。
「ユニークな視点」は絶対価値で、少しの差ではすぐに追いつかれ価格競争になってしまう。最も重要なのは「モノ事の本質」でコンセプトそのものだ。
ホンダでは「コンセプト」を「三現主義」と「ワイガヤ」で考えるという。ホンダの「三現主義」とは「現場で現物を見て現実を知ることで、本質を掴むこと」であり、ホンダの「ワイガヤ」とは、通常業務を離れ社外で3日3晩合宿する中で徹底した自由な議論を通じて本質を追求するのだが、
 (1)あなたの会社(組織)の存在意義は?
 (2)愛とは何?
 (3)あなたの人生の目的は何か?
という基本概念を自分の言葉で語れないようでは話は始まらないというのだ。「ワイガヤ」では常に「あなたはどう思う」と問われ、一般的な話をすると「どこかで聞いたことがあるな」、説明が長くなると「一言でいうと何だ」と畳みかけられるという。この、つらくて果てしない熟慮を支えられるのは「想い」だけだという。
 小林三郎氏著の『ホンダイノベーションの神髄』を読みながら、「あさひ会計の価値とは何だ?」「あさひ会計の存在意義とは?」「自分の人生の目的は?」と自問することの連続だった。

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