リクルートの不思議(2021年_9月号)

 

 リクルートの創業者、江副浩正氏は東大の学生時代に、大学新聞に新卒向けの会社説明会の告知を掲載する広告営業を発案し大成功を収めた。大学卒業後に「大学新聞広告社」( 後のリクルート) を設立、大学新卒の求人広告だけの情報誌「リクルートブック」を刊行して無料で学生に配るという前代未聞のビジネスモデルで新たな挑戦に乗りだすこととなる。

 しかし、何の実績もない企業への反応は厳しく、学生の就職活動を目前にして契約をしてくれた企業はさほど有名でない企業20 社のみ。江副氏は腹をくくり、赤字覚悟で「大企業の広告は無料」と決断し、最終的には有料29 社、無料40社、計69 社で創刊号はスタートしたのだった。その後、同社は順調に成長するのだが、有望な市場と見込んでダイヤモンド社が「就職ガイド」を創刊して参入してくることになる。江副氏は「同業者競争で敗れて2位になることは、我々にとって死である」「これは戦争だ。完膚なきまで叩きのめさないと、我々がやられてしまう!」と檄を飛ばし、結局は圧倒的シェアを維持し続けるのだった。

 江副氏は自社でも「自分より優秀な人」を採用しようと本腰をいれることになる。男女の差別をせず、良いアイデアを持つ人には年齢やキャリアに関係なく「じゃあそれ、君やってよ」と任せることで新しいプロジェクトを生み出してきた。リクルートのキャッチフレーズは「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」だが、この言葉に触発され、リクルートからは多士済々の人材が輩出されることになる。
 現在、リクルートは右肩上がりで成長し続け、連結売上高で2 兆数千億円の企業となっている。主なサービスを上げれば、〇就活スタートラインの「リクナビ」、〇バイトするならの「タウンワーク」、〇旅のおとも「じゃらん」、〇賃貸住宅の「SUUMO(スーモ)」、〇中古車探しの「カーセンサー」、〇グルメの「ホットペッパー」などである。さらに2000 年代からはグローバル市場への展開を進め、世界の60 か国以上でサービスを展開し、現在海外売上比率は46%に達している。

 これだけ多方面に事業展開して軌道に乗っているのが「不思議」と思う人が多いのだが、もう一つの「不思議」がある。リクルートの出身者が卒業後様々な業界で活躍していることである。その数、上場企業の経営者で数十人、有望企業の経営者で数百人といったところだろうか。
 なぜ?リクルートの卒業者は様々な業界で活躍できるのだろうか。それはリクルートの社風、価値観にその要因が宿っているというのが定説だ。

◇社員皆経営者主義・・・同社では人事以外の情報を全員に開示している。新入社員にもアルバイトにも会社の決算書が配られる。情報を秘密にすると実力の無い上司が、実力のある部下に「君には言えないのだけれど、それはダメなんだよ」という口実を与えてしまうというのだ。情報が共有化されると社員も経営者と同じ発想をするようになる。
◇権限移譲主義・・・管理職じゃないのに管理職の権限を委譲される。嬉しいと捉えるのか、仕事が重くなるのは嫌だと捉えるのか。ほとんどのメンバーは前者だ。目的やゴールをはっきりさせ、情報を徹底開示し、あとは丸ごと魂で任せる。「お前はどうしたいんだ。自分で考え自分で決めろ」「こうしたいです」「それじゃ責任は俺が取るからやってみろ」上司は、成功は部下のもの失敗は自分のものと覚悟する!その姿を部下が見て己の心に刻む。
◇失敗への寛容さ・・・「お前があれだけ一生懸命やって失敗したのだから、会社は学んだんだ」社員も会社も成功や失敗をしながら成長していく。
このほかにもPC 制(部門別損益制度)による独算制などがあるのだが、リクルートに残って活躍する人材も、卒業して異分野で活躍する人材も、リクルートならではの企業文化を持ち続けている。

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