ハーバード大学の経営大学院では“世界が知るべき素晴らしいリーダーシップの事例”として福島第二原発の事例を教えている。
福島第二原発はメルトダウンした福島第一原発から12kmしか離れておらず、東日本大震災が発生したときには巨大津波に襲われ第一原発同様の危機に直面していたという。
原発事故を防ぐ3原則は「止める」「冷やす」「閉じ込める」だが、3月11日午後2時、地震による激しい揺れに襲われた直後、第一原発、第二原発とも稼動していた全原子炉は自動停止しており、「止める」ことには成功している。その40分後、津波が押し寄せ福島第一原発は全ての電源が喪失して「冷やす」ことが不可能となり「閉じ込める」ことに失敗してメルトダウンを許してしまう。福島第二原発は津波により冷却機能を一旦破壊されながらも、冷却機能を回復して「冷やす」「閉じ込める」を実行し、稼動していた4基すべての原子炉の冷温停止を達成している。
福島第二原発の増田所長と作業員はどのようなことを思い、どんなことをやり遂げたのだろうか?地震発生後、混沌とした状況の中で増田所長はホワイトボードに数字と図を書いていった。「自分がいま、わかっていることを全員と共有しなければ」という思いだったという。だからこそ、3月11日午後10時、気温零下、暗闇の中、作業員を現場に向かわせることができ、現場の損傷状況を確認することができたのだという。その結論は、無事だった廃棄物処理建屋の電源から海水熱交換器建屋までの約9kmに、一本の長さ200m、重さ約1tのケーブルを人力で敷設することだった。
増田所長は、朝と夕の二回、全作業員が集まるミーティングを開催し、自分が持っている情報、作業員が持っている情報をすべて共有し、すべてが想定外、絶えず目の前の現実が変化する中、「ごめん、間違った」「さっきの訂正」と何度も言いながら部下の質問に即答し、具体的な指示を出していった。
そして、通常なら重機を使っても1ヶ月はかかるケーブルの敷設を200人の作業員たちは、不眠不休で作業を続け2日間足らずでやり遂げ、冷却機能を復旧したのだった。
私は会社の財務情報も、各人別の給与を除き、従業員にすべて知らせたほうが良いと思っている。情報を共有することにより全員が社長と同じ感覚を持って業務を行うことが出来るようになるからだ。また、社長といえども朝令暮改は大いに結構と思っている。間違いだと思ったら、すぐに直した方がいい。
アメリカが賞賛したのは、増田所長のリーダーシップだけではなく、現場作業員の行動力と志の高さでもあった。
参考文献:『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(佐藤智恵 著・PHP新書)