先月、㈱マルナカ中村商店様の創業100周年の記念式典にお招きいただいた。1913年(大正2年)丸太中村商店様から分家して独立。「誠実」をモットーに、「会社は利益を上げ、社員を大切にし、株主(親族と従業員)にも配当し、配当は増資に向ける」という手堅い経営方針を貫いて創業100年を迎えた。
日本は世界に冠たる長寿企業大国だ。創業200年以上の企業は世界に5,710社あるが、その内日本の企業は3,110社あり54%を占める。
ではなぜ日本に長寿企業が多いのだろうか。1つには、日本人の勤労精神に負うところが大きいという。日本では神話の世界の天照大神からして機織りをして労働にいそしんでいる。神様が労働をしている宗教など日本以外にはない。キリスト教では労働は原罪の対価であり苦役とされている。現在でも欧米ではホワイトカラーとブルーカラーとでは歴然とした身分差がある。日本では身分差どころか現場で仕事に打ち込む「職人」は尊称でさえある。
さらに江戸時代になると“三方よし”という概念が生まれ、信用第一、のれん、人を育てると言った現代でも通用する商家の家訓が伝承され、目先の利益にとらわれることなく、細く長く経営を維持しようとする経営理念が育まれてきたことが、長寿企業を輩出してきた理由とみられている。
“三方よし”とは「売り手の都合だけで商いをするのではなく、買い手が心の底から満足し、さらに商いを通じて地域社会や福利の増進に貢献しなければならない」という近江商人の思想、行動哲学である。
世界で最も尊敬される経営者ともてはやされたジャック・ウェルチは“ウィン・ウィン”の哲学を唱えたのだが、江戸時代の近江商人は“ウィン・ウィン・ウィン”とジャック・ウェルチのさらに上を行っていたのである。ひとつの“ウィン”しか考えないお隣の国にも“三方よし”の思想こそが国家を安定させる秘訣であることをお教えしたいのだが、自己の利益だけを考え今日も排煙を撒き散らしているのかと思うと憐れでさえある。
中村家のルーツは近江商人であり、まったくもって“三方よし”を実践されているのであるが、さらに中村元吉前社長が残した教えをいくつかご紹介しておきたい。
①損して得とれ ②欲ばんな
③何があっても、先ずありがとう
④儲かる話に気をつけろ
⑤お天道様が見ている
⑥やっぱり明るぐないとだめだ、笑顔が一番
⑦公平と平等は違う、取り違えるな
⑧あぶく銭、悪銭身につかず、お金は天下のまわりもの
⑨物ごとには、順序がある