日経新聞の調査によると上場企業の75%は将来の賃金体系として、「個人の成果」(発揮能力)を最も重視し、続いて「個人の能力・スキル」(保有能力)や「個人の職務」(地位、担当)を重視する一方、「扶養家族の有無など」(ライフステージ)や、「年功」(勤続年数)にはこだわらないとしている。
上場企業は、簡単に賃上げしないものの、人材は企業成長の源泉と位置づけて個人の成果には報いる方向で、成果で処遇に差をつける構えだ。一方、成果が出なければ降格や降給も辞さないという厳しい処遇を示唆しており、日本の大企業の多くは、外資系企業の成果主義の賃金体系に傾斜していくように思える。しかしながら、人材獲得が容易でない中小企業にとっては「カネで動くものはカネで去る」といわれるように、馬ニンジンのような人事制度はかえって逆効果かもしれない。
中小企業の社員からは、①この会社で働き続けても将来自分がどうなるか先が見えない、②どう評価されて給与や賞与が決まるのかわからない、③不平不満があっても言い出せない、④仕事が出来ない人の賃金が高い、⑤部署や上司によって評価がマチマチだ、などなど賃金制度に対する不満が続出だ。
これらの不満を解消しなければ、中小企業は、将来的に、仕事はあっても人材が不足して立ち行かなくなってしまうだろう。まずは、人材確保のための人事制度を考えなければならない。いまや鉛筆ナメナメの賃金決定は通用しない。
人事制度は①人事評価制度、②昇進昇格制度、③賃金テーブルで構成されているが、人事評価制度が要だ。中小企業の経営者は人事評価制度を構築するにあたって、まずはこの会社が将来どうなっていくのかのビジョンや経営計画を明示する必要がある。会社がどこを目指しているのかを指し示さずして、将来を担う社員を引き留めることは出来ない。その上で、会社のビジョンを達成するためにあなたにはこういうことを期待し、こう成長してもらいたいということを人事評価制度に織り込むのである。
中小企業向けの最近の人事評価制度は、ビジョン型人事評価制度とか成長支援型人事評価制度といわれ、会社のビジョンと人事評価制度をリンクさせ、かつ、社員の成長を支援する人事評価制度となっており脚光を浴びている。興味のある方には『社員が成長し、業績が向上する人事制度』(松本順市著:日本経営合理化協会)および『小さな会社は人事評価制度で人を育てなさい!』(山元浩二著:中経出版)をお薦めする。
これらの人事評価制度は「成果主義的分配」や「共同体的分配」とは別次元の日本独自の分配制度なのかもしれない。