人生と読書(2021年_11月号)

 

 

オンライン研修(日本道早朝ゼミ)で、東日本ハウス(現 日本ハウスホールディングス:東証1 部)の創業者中村功氏が講師を務めるとの情報が入り、懐かしい思いから参加した。

東日本ハウスは私が公認会計士試験合格後まもなく出会った稀有な会社だった。

将来上場を目指すとのことで、私が勤務していた監査法人が会計監査を実施することとなったのだが、監査を進める中でびっくりすることに山ほど出くわした。

➀建築業の平均利益率の倍の約8%の利益率を誇っていた、➁月次試算表は手書きの時代にも関わらず、翌月1 日に完成させ、同日に支店長会議を実施していた、➂お客様とは「何時何分」と分単位で約束し、5 分前には到着していた、➃各支店の支店長の机の後ろには社長直筆で“客を切れ” との垂れ幕が掲げられていた、等々である。

そのオンライン研修に今度は私も講師として出ることになり、中村功氏も見ていらっしゃったらしく電話を頂き、先日、お会いすることになったのだが、実に中身の濃い充実した数時間を過ごすことが出来た。

中村氏は若者の教育に力を注いでおり、「夢と生きがい」を持てと強調する。そして「人生の中で大きなウエイトを占める仕事に価値を見出せなくて何に生きがいを求めるのか」という。人は人から褒められ、尊敬され、頼られることが生きがいだ。そのためには人生修業し、勉強し、人間を磨くことだ。本を読みなさい。チャーチルは「本当の学問は立派な人の伝記を読むことだ。他に何も学ばなくてもいい」とまで述べている。自分の人生をどう生きるか、それを偉人伝から学びなさいというのだ。中村氏は中学生の頃から歴史物、人物伝をよく読んだという。しかも、同じ本を14、5回は読んだという。
「1回読んだぁ、そんなものは読んだと言えない」
と私もぴしゃりと怒られてしまった。

中村氏は偉人伝や歴史物から➀先人の事績から人生如何に行動するかを学べる、➁現在は過去の延長であり、正しい歴史を知ることによって将来を予測することが出来る、➂歴史に生きた多くの先人の行動が我々に悠久の概念を与え、小事にこだわらぬ勇気が与えられる、と教える。

司馬遼太郎の『坂の上の雲』からは「主題ある人生」を学んだという。「人生は単純であるべきだ。余計なことに構わずその目的のためにだけ生きよ。」この言葉で中村氏は自分の中に筋金が一本入ったような気がしたという。目標を持つと生き方が決まるのだ。勿論、何回も何回も読んでの話である。

吉川英治の『新書太閤記』は20回近く読んだという。秀吉は信長に対する人の評判に惑わされず、信長の凄さを見抜き、自分の親分は信長だと確信したことが転機となる。信長も秀吉を見て、この男は仕事に命を懸けられる人間だなと見抜く。秀吉の一番の凄みは、信長が越前攻めに失敗し、朝倉、浅井軍の挟み撃ちにあって撤退することになった際、誰が殿軍を務めるかというときに秀吉が手を上げたことだ。それまで秀吉は口先だけで出世したと悪口を言われていたが、これを機に評価が一変した。命を顧みず戦った男に人々の心が動くのだ。中村氏は『新書太閤記』にはビジネスの神髄がすべて書かれているという。

また中村氏は、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』には人生のロマンと勇気が描かれ、自分の人生に生きる意義、価値を見つけた男達の生き様は壮烈であり、ビジネスマン必読の書と薦める。
稲盛和夫氏は会社の目的は「社員の物心両面の幸せを実現すること」だという。長年、社員の心の幸せとは何だろうと思いを馳せていたのだが、中村氏との話を通し「仕事を通じて人の役に立つこと」によって、褒められ、感謝され、人間として認められ、誇りを持ち、そして仲間と一緒に事を成し遂げて感動しあうことこそが「社員の物心両面の幸せ」の心の部分なのだろうと思い至ったのだった。

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