10 年程前に読んだ本を読み返してみた。『儲かっている会社、儲かっていない会社』(金子智朗著)だが、著者は公認会計士でコンサルタントだ。B/S(投下された総資本)が製品を生み出すが、製品が利益を生み出すわけではない。顧客が価値を認め利益を生み出すのだ。ところが多くの会社では製品別に利益を管理しており、顧客別に利益を管理している会社はほとんどないと著者はいう。
「客を切れ」と私に教えてくれたのは東日本ハウス(現日本ハウスホールディングス)の創業者である中村功氏だが、客を切るためには顧客別の損益管理が必定だ。「客を切れ」とは大げさな表現だが、赤字企業を分析してみると多くは一番の大得意先が赤字であるケースが多い。その一番の得意先を切ることは並大抵の覚悟では出来ないが、それを実現できた企業はその後営業利益率が10%を超える優良企業となっている。
客を切るとまではいかなくとも、お客様に値上をお願いすることも重要な利益の源泉となる。しかし、まっとうな理由がなければお客様は単なる値上げには納得してくれないだろう。お客様が納得できる理由とは、競合製品や競合他社とは違う何かである。性能なのか、デザインなのか、デリバリーなのか、スピードなのか、対応力なのか、他社との差別化要因を創り出しそれが価値として顧客に認められ、はじめて高い価格が正当化されるのだ。さらに差別化要因が製品や企業イメージと結びつけばブランドという価値にもなる。昨今は素材や電気料が高騰しており、正当な値上げ理由として、時間をおかず資料を揃えて値上げ交渉に臨むべきだろう。
顧客が利益の源泉であるとすれば、組織も顧客志向とすべきだ。「組織は戦略に従う」と言ったのはチャンドラーだが、多くの会社は組織形態ありきで、そこに仕事を割り振っている。戦略目的がありそれを実現するために組織編成するのが筋だろう。
例えば今般、あさひ会計では顧客企業のDX化を進めるべくDX 部を新設した。
利益の源泉としてはコストも重要なファクターである。確かにコストはキャッシュアウトの原因であり削減の対象ではあるが、一方ではコストが無ければ製品を作ることが出来ずコストは富の源泉でもある。その意味では「一律〇%コスト削減」というのは何の策もないコスト削減のやり方だ。
著者は、コストを売上(利益)に貢献する「善玉コスト」と売上(利益)に貢献しない「悪玉コスト」に区分し、悪玉コストは削減し、善玉コストは削減してはならないという。善玉コストを増やすことによって売上(利益)がさらに増えるのであればむしろ増やさなければならない。目的はコストを減らすことではなく利益を増やすことなのだ。
コストは変動費と固定費とに分類できる。さらに固定費は広告宣伝費、交際費などの➀マネジド・コスト(管理されるコスト)と、減価償却費、賃借料、人件費などの➁コミテッド・コスト(約束されたコスト)に分けることが出来る。この中で変動費は単価を下げるか、数量を減らせばコストが下がりコスト削減に最も適したコストだ。また固定費の中のマネジド・コストも相当程度削減可能なコストだ。
稲盛和夫京セラ名誉会長は「予算など立てたこともない」とおっしゃっていたが、予算を立てると経費は予算通りに使うが、売上は予算通りにいかない。結局赤字になるというのだった。予算を立てず、日々不要な支出を抑えるのが稲盛流だ。
最も固定費らしいコミテッド・コストは、設備、オフィス、人件費など会社というそもそもの仕組みを形作る経営資源が発生源となっており、一度保有すると簡単に削減出来ないのが特徴だ。著者は「押してダメなら引いてみろ」という。コミテッド・コストを下げる方法として稼働率を上げろというのだ。変則2 交代制を導入してコミテッド・コストを下げ、大幅な増益に転じた製造業がある。