労働時間だけではない「働き方改革」(2017年_11月号)

特定社会保険労務士 今野 佳世子

 長時間労働是正が目立つ「働き方改革」ですが、実はもっと幅広く、多様な働き方を可能とすることにより、少子高齢化の環境下で労働力を確保することに狙いがあります。具体的には、育児、介護、病気、障害、高齢、短時間しか勤務出来ない、転勤・配置転換に応じられない等、正規雇用の対象から外れがちな事情のある人が就労を継続できる環境を整え、同時に正規雇用とそれ以外の労働者との不合理な待遇差をなくす同一労働同一賃金の実現を目指す取り組みなのです。
そのなかから病気治療と職業生活の両立支援についてご紹介します。

〇従業員が病気になる確率が上がっている
 65歳までの雇用確保措置が義務化されたことにより従業員の年齢幅が広がったこともあり、従業員が在職中に病気にかかる確率が上がっています。国民の2人に1人は一生のうちにがんを経験し、がん患者の3分の1は働く世代といわれています。一方、医学の進歩により最近では内視鏡治療や腹腔鏡治療等、体に負担の少ない治療方法の適用で早期復職可能なケースが増えています。
人手不足の昨今、大切な従業員を病気のために退職させるよりも、職場環境や勤務条件を見直してでも復職させることにはメリットがあります。

〇治療と職業生活両立ガイドライン
 病気休職していた従業員を復職させるべきか判断に迷う、というご相談をいただくことがあります。主治医の診断書には簡潔に「〇月〇日から就労可能」「軽作業なら可」などと記載されていることが多く、安全に職場に戻すには情報が足りないと感じることがあります。事業主には、従業員に対し「安全配慮義務」(労働契約法第5条)があります。これは、就労にあたり心身の安全を確保するよう配慮しなければならないというものです。
また、もし復職できないという判断となれば休職期間満了で退職という重大な結果になるため、主治医や産業医の意見を十分にきくことが大切です。
このようなとき、厚生労働省作成の「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」がお勧めです。
治療と仕事の両立支援の具体的な方法が示されており、なかでも医師とのコミュニケーションに使用できる書式例がとても役にたちます。事業主から医師に対して、その従業員(患者)の仕事の内容、勤務時間(交代制勤務、夜勤など)、作業環境(屋外作業、温度等)などの情報提供をするための書式や、主治医の意見書に現在の症状、今後の治療予定、今後の就労可否、就労する場合に職場で配慮すべきことが組み込まれ、どう質問したらよいか分からない場合の助けになります。
 
そのほか、健康保険傷病手当金、障害年金、雇用保険の受給延長など、治療しながら職業生活を継続する人にとって公的給付を利用して収入を確保するためにできる制度があります。これらの制度は健保協会・年金事務所、ハローワーク等公的窓口で相談できます。何から相談したらわからないという場合にはお問い合わせください。

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