先日、金融庁地域金融企画室長日下智晴氏の講演を聴く機会があった。今、地域金融機関は金融庁指導の下に大きく変わろうとしているという。
下図<金融機関の構図>に示しているが、これまでは年商5 億円から20 億円の事業者に対して地域金融機関の間で★「不毛な競争」が行われていたというのだ。例えば信金信組がメインの融資先に地銀が低利融資するなどだが、その結果、地域金融機関の安定した収益や将来の健全性を阻害し、「金融仲介」機能すなわち地域企業の経営課題を把握し、その解決に資する方策の策定や必要なアドバイス、適切なファイナンス等地域企業に付加価値を提供することが出来ず、地域経済や利用者に悪影響を与えてきたというのだ。日下氏は、地域金融機関は顧客を奪い合うのではなく、プラスサムの競争により経済主体に隈なく資金を回し、地域企業が必要な事業承継や業種転換等に取り組み、好循環を生み出す持続的な地域経済を形成していくことこそが重要業務だと指摘している。
そもそも金融取引には➀トランザクション・バンキングと➁リレーションシップ・バンキングとがあるのだが、トランザクション・バンキングは財務諸表等の定量情報を基に倒産確率等を推定し一時的かつ個々の取引の採算性を重視する融資手法であり、リレーションシップ・バンキングは事業会社との長い関係性の中で、経営者の経営能力等の定性的な情報に基づいて融資などの金融サービスを提供する手法と定義される。
地域金融機関はリレーションシップ・バンキングの割合が大きい。その中で産業全体や取引企業の課題・ニーズを把握し、成長可能性などを適切に評価する「事業性評価」や財務諸表には表れない人的資産、組織資産、関係資産といった「知的資産分析」の重要性が高まっている。
知的資産分析だが、例えば、コロナによる緊急事態宣言や休業要請により客が激減した同一地域、同一業種のお店で、コロナが収束した際の客足の戻り、売上の回復はそのお店の財務内容とは無相関であり、知的資産のみで決まるといわれている。つまり、ロイヤリティの高いお客様をどれだけ抱えているか、真っ先に駆け付けたい料理の腕や店の雰囲気があるかなど顧客基盤、人材、ノウハウ等がそのお店の「知的資産」という訳だ。事業性評価とは財務分析と知的資産分析とを統括したものともいえるのだが、今後は金融機関にしろ、会計事務所にしろ、事業会社自身も知的資産の存在を重要視し、分析していく必要があろう。
また、下図の★「空白地帯」となっている事業拡大を目指し果敢なチャレンジを繰り返す企業に対して、金融機関は「金融仲介」を通して付加価値の高いサービスを提供することにより安定した顧客基盤と収益を確保できるわけで、事業会社との「共通価値の創造」を通じ両者の相互依存関係が成立することが求められていると日下氏はいう。いわば「新たなメインバンク制」の到来が期待されている。