特定社会保険労務士 今野 佳世子
多くの企業の就業規則には、次の一文が入っているようです。
「従業員が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合で、労働時間を算定しがたいときは、所定労働時間労働したものとみなす。」
営業等社外での業務が多い職種について、この条文をたよりに「みなし労働時間制だから退社が遅くても残業扱い不要」と解釈している方もいらっしゃいます。
では、上のような条文でみなし労働時間制を採用している企業では、次のような営業社員の労働時間は、どのように算定するのでしょうか。
<事例>
所定労働時間 8:30~17:30(休憩1時間)
8:30~8:40 朝礼
8:40~9:00 事務処理(社内)
9:00~17:00 営業活動(社外)
17:00~ 18:30 報告書等作成(社内)
18:30 退勤
みなし労働時間制で労働時間を算定する場合、以下の2点に注意します。
①「労働時間を算定しがたいとき」に該当するか。
社外での活動は、訪問スケジュールの決定、内容の詳細な報告を随時行い、外出先から携帯電話やタブレット端末等を使用して指示を受けながら業務を行う、という場合は、みなし労働時間制の適用が否定される可能性があります。また、労働時間管理に関わる上司と
一緒に外出した場合は適用されません。
②労働時間算定可能な業務を行った時間は、実時間で別途算定する。
事例でいうと、朝礼、事務処理、報告書等作成の合計2時間は別に把握、算定する時間数となります。
この日の労働時間の計算方法は下記のとおり計算され、仮にみなし労働時間制を適用しないとした場合の方が少なくなります。
●みなし労働時間制を適用 10時間(社外8時間+社内2時間)
●みなし労働時間制を適用しない 9時間 (所定労働時間+残業1時間)
事例とは異なり、営業活動で8時間以上外勤し、みなし労働時間制を適用したほうが労働時間が短く算定される日も、もちろんあると思われます。このように、労働者に有利な日も不利な日もどちらも発生しうるのがみなし労働時間制です。そのため、みなされる労働時間数は、なるべく実態に近いものに設定すべきですが、多くの企業では所定労働時間としています。所定労働時間よりも短くまたは長く設定する方法もありますが、よほどパターンが決まっているのでなければ実態に合わないことが多くなります。
このように、みなし労働時間制は実は使い勝手が悪いものです。モバイル端末の活用が増えた昨今は①についての解釈が裁判所においても労働基準監督官による指導においても厳しくなっています。
皆様の職場でも、問題ないか検討されてみてはいかがでしょうか。