特定社会保険労務士 今野 佳世子
今年の4月1日のライフネット生命社長のブログが話題を呼びました。
「入社2日目の明日から試して欲しいこと」と題し、新入社員に向け、「社内で信頼を得るため」に「毎朝、定時より30分前にきっちりした身なりで出社し、新聞を読んでいなさい」というメッセージを記したものですが、それに対し「時間外労働を強制するのか」というものも含め批判を受けてしまい、それに対する反論がまた批判を呼んで、のちにご本人が「お詫び」を掲載するに至るという事態となりました。
社内の信頼を得ることとコツコツ積み重ねることの大切さを説いたシンプルな教えで、ありがたいメッセージだと私は思うのですが、立場上「定時30分前」という言葉に対する過剰反応を招いてしまったようです。
労働時間のご相談を受けていると、朝、職場に到着してから定められた始業時刻までの間をどう取り扱うべきか、というご質問をよくいただきます。
始業時刻のどれくらい前に出勤するかは、多分に職場風土で決まっていることでしょう。また、始業時刻までの過ごし方も、朝食をとったり、コーヒーを飲んだり、喫煙所で喫煙したりしてゆったり過ごす人が多い職場もあれば、自主的な清掃など環境整備をする人が多い職場もあります。
労働時間は、業務命令に基づき労務を提供する義務のある時間です。在社時間=労働時間ではないので、業務命令に基づいた行為をしていなければ、出勤した時刻から定められた始業時刻までは自由に過ごしている時間となり、労働時間には含めません。清掃や朝礼など、参加・出席を義務付けられた活動からが労働時間となるので、就業規則などに定められた始業時刻前に、そのような活動への参加を義務付けている場合には、毎日早出による時間外労働をしていることになってしまいます。義務付けられているか=業務命令に基づいているか、それとも自主的な活動かが、労働時間となるかの分かれ目です。従って、特にお客様を迎えるような業種の場合、従業員の始業終業時刻は、営業時間よりも早く始まり、遅く終わる必要があります。
教育的な意図をもって、清掃や除雪などの環境整備を自主的に行えるような従業員であってほしい、と考える経営者、管理職の方が多いのも確かです。従業員の「自主性」を信じたいし、いちいち時間外労働として認められない、というお考えもあることでしょう。しかし、これらの活動による結果が、事業の運営上必要不可欠なものであれば、始業時刻後に行うことにするか、場合によっては外注することも検討されることをお勧めします。また、昼休みの電話応対なども、必要性の程度に応じ、休憩を交代制にするなどの方法で「昼残業」とならないように配慮することも必要です。
冒頭に触れたブログでは、「新聞を読む」という、本来は自宅で行うべき私的行為を職場で行う(むしろ職場のデスクを貸してあげるよと許可している)ことで堅実さを示して信頼を勝ち得てはどうかと勧めているだけだと思うのですが、これを批判するならば、権利意識を振りかざすことで、上司からのせっかくの有益な助言をきく機会を逃してしまうように思います。