数年前の『あさひ通信』で経営者の視点として①鳥の目、②虫の目、③魚の目が必要だとする経営コンサルタント林總氏の見解をご紹介したことがある。
経営者は、高く、広く、大づかみに会社を俯瞰する“鳥の目”と、現場で詳細なデータを皮膚感覚で捉える“虫の目”と、変化や異常点に目を凝らして流れを読む“魚の目”の3つの目を持たなくてはならないというわけだ。
3つとも重要な視点であるが、時代の変化が激しい昨今では流れを読む“魚の目”が経営上特に欠かせない視点だ。経営者の皆様には自社に合ったいくつかの指標を設定して頂き、毎月毎月その指標の数値を測定(定点観測)して、その数値の動きから会社を取り巻く環境の変化や会社内部で起こっている潜在的変化を掴み取ってほしいと思っている。
では、どんな指標を設定して定点観測すれば良いのだろうか。製造業、卸売業、小売業、サービス業と業種によって設定すべき最適な指標は異なるのだが、その企業のおかれている状況によっても採用すべき指標は異なるだろう。又、設定する指標の数も多ければ良いというわけでもなく、5つ位が目標水準と過去の実績値をいつも頭に入れておくことができ、ちょうど良い指標の数と私は思っている。
あさひ会計では、“片手管理”といって①売上高、②粗利益、③労働分配率、④売上債権回転率、⑤棚卸資産回転率の5つを基本的に注目すべき指標として捉えているが、小売業であれば売上高対現預金(手持資金)比率、製造業であれば総資本営業利益率(ROA)、サービス業であれば一人当たり(粗利益、労務費、労働時間)など、設定可能な指標はいくつもある。その中から自社の経営指標にふさわしい項目を選び、目標値を定め、実績値を把握し、過去の数値と比較して流れを読むこととなる。
実際には、売上高にしても商品別や顧客別、拠点別に数値を細分化してその動きをじっくり観察しなければ“流れ”を読むことは出来ないのであるが、長年じっくり観察を続けていると異常値が見えてきて、“流れ”が掴めてくるという。いわば、数値のほうから変化を訴えてくるのだという。
労務費についても、部門別に毎月一人当たりの労務費、労働時間、労働分配率(労務費/付加価値)を観察し続けると異常な数値が発見され、その原因を追究していくと現場で起きていることが見えてくるようだ。
いずれにしろ、中小企業にとっては、戦略よりも管理水準を上げるほうが有効であり、業績に直結することに間違いはないとさまざまな実績から私は確信している。定点観測的手法は、あさひ会計が特に注力しているMQ会計と並んで非常に有効な経営管理手法だといえるだろう。