ランチェスター戦略は40年ほど前に日本で考案された経営戦略であるが、中小企業の経営にとっては今でも非常に有効な指針といえる。元はと言えば、英国の航空工学の研究者ランチェスターが発見した兵力数と武器の性能の関連性による“戦闘の法則”であるが、この法則を応用した経営戦略である“ランチェスター戦略”は、昨今の円高、電力不足、少子・高齢者社会の到来等により国内需要が急速に縮小している中で、弱者が如何にして生き残るかという課題に対しては格好の教科書だ。
1時間で基本理論を習得できるという触れ込みの『「営業」で勝つ!ランチェスター戦略』福永雅文著(PHPビジネス新書)に沿って、中小企業がこれから進むべき道を探ってみた。
ランチェスター戦略では「強者とは市場シェア1位の企業」「弱者とは市場シェア2位以下のすべての企業」と定義付けている。従って、大手や上場企業も必ずしも強者というわけではない。イトーヨーカ堂もシェアNo.1のダイエーを弱者の戦略で逆転した典型的な弱者の戦略体質を持った企業として紹介されている。
ランチェスターの戦闘法則からは小が大に勝つ3つの原則が導き出されている。①一騎打ち戦、局地戦、接近戦で戦う(ランチェスター第一法則を適用する)。②武器効率を高める。③兵力を集中する。
ビジネス用語でいえば、“武器効率”は“商品力”(品質・性能、技術、スピード、顧客対応力等の質的経営資源)、“兵力”は“販売力”(社員数、製造設備、売り場面積等の量的経営資源)と言い換えることができる。
では、弱者の戦略とは如何なるものなのだろうか。実際の戦闘でいえば、信長の桶狭間の戦いのように狭い谷間のような場所で、鉄砲で多数の敵を攻撃不可能な状態にしておいて、接近戦・一対一の戦闘にもっていけば敵の損害を増やし勝つことが出来るという考えである。
ビジネスでいえば商品力(顧客ニーズに合った特定項目の質)を高め、販売力(すべての量的経営資源)を一点(特定分野)に集中して、局地戦(地域や領域を限定=隙間市場)、接近戦(顧客に接近する営業活動=スキンシップで戦う)、一騎打ち戦(競合数=ライバルの少ない市場を狙う)、陽動戦(奇襲戦=手の内を読ませない)で戦うのが弱者の戦略といえる。
弱者の基本戦略は“差別化戦略”といえるが、ポイントは「①価格以外で差別化して価格競争を避ける。出来れば②強者とは違った価格帯(例えば高価格帯)で戦う。そして、③直販を重視して顧客との“心の距離”を縮めた戦いをする。」のが弱者の戦法であると説いている。
ランチェスター戦略は逆説的であるが、弱者の戦略によって、分野を狭めシェアでNo.1の企業(強者)になることを目的としている。