持続的賃上げの仕組み(2023年_7月号)

 

 

物価上昇や人手不足が続く中、企業存続発展のために「持続的な賃上げ」の必要性が叫ばれている。岸田首相は「デフレからの脱却の為に、賃上げが当たり前の経済を実現する」といい、大手企業の一部も物価上昇や人材不足感が強まる中、継続的な賃上げを表明している。

2023 年の春闘においては、連合の集計によれば加重平均で 11,554 円(3.76%)の賃上げが、雇用者 300名未満の中小企業では 8,763 円(3.39%)の賃上げが実現し、バブル崩壊以降最大の賃上げ率となった。一方、4 月の実質賃金は前年同月比で 3.2% 減と 13 ケ月連続でマイナスとなっている。

とはいえ中小企業にとって、利益が上がらなければ賃上げの原資が続かず、持続的な賃上げは不可能だ。賃上げをするには業績を向上させなければならず、それが出来なければこれまでと桁違いの採用難どころか、既存の社員の定着も困難となり、企業の存続が危ぶまれるだろう。人事コンサルタントの松本順市氏は、持続的な賃上げを行うためには「賃金が増える仕組みを社員に説明しなければならない」という。以下は松本順市氏が説く賃上げの仕組みだ。

通常、会社において社員は一般階層(1 等級から 3 等級)から中堅階層(4 等級から 6 等級)、管理階層(6等級から 9等級)へと成長していき、それに伴って世の中に大きな貢献をし、その結果として年収が増加していく。

社員が一般階層で仕事をするということは自利の世界であり、自分がやったことを褒めてもらい、その分だけ賃金が増える世界だ。

社員は次の段階で中堅階層にステップアップして部下を持ち、部下を成長させることが自分の仕事になる。この段階は「部下の成長支援」という利他の世界だ。しかし、自分が採用したわけでもない他人を成長させることは簡単ではない。そのプロセスはプレーヤーとは違うマネジメントの世界であり、部下が成長しないのは部下のせいではなく、自分の部下指導が十分できていないからだということになる。つまり、部下を成長させることは上司である自分に対する期待成果であり、部下を成長させることが自分の成長(成果)であることを理解することになる。

単純化していえば、年 1500 万円の付加価値を上げる年収 500 万円の中堅社員が部下育成に専念し、平均年収 300 万円の部下 5 人を自分と同じ力量に育て上げれば、7500 万円の付加価値を創出でき、部下を入れての現時点での年収計は 2000 万円であり、大幅な賃上げが可能になるという計算だ。

松本順市氏が提唱する人事制度はスキルを持ち、重要業務を遂行し、成果を上げる人の評価は5 点満点の 4、それを部下や同僚に教えることが出来る人を 5 としている。つまり、自分の力を自分一人に留めおくのではなく、部下や同僚に移転することにより会社全体としてはより多くの付加価値を創出できる体制を構築できるというのだ。松本氏はこの人事制度を実践し数多くの優良企業の誕生を支援してきた。彼が提唱する人事制度は2023 年 5 月までで全国で 1369 社が採用している。

もう一つ、私が提唱する黒字化の手法がある。「客を切る」だ。どんな企業でも顧客ごとに採算計算をすると、ほとんどの場合赤字の得意先がある。その企業に対しては、データを示し値上げ交渉をすることになるが、値上げに応じて頂けないのならその顧客を「切る」しかない。その結果、「減収増益」となる。経営者の皆さんは「売上」に固執するのだが、売上をいくら上げても赤字では意味がない。キチっと得意先別損益を把握し、果敢に「客を切る」ことが黒字化につながるのだ。この管理手法を取り入れている企業の営業利益率は、稲盛和夫氏が指し示す 10%を超えている。BtoC の企業であればコンビニが実施しているように採算性(交差比率)の悪い「販売商品を切る」ことになる。

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