新応接棟の評判が良い。既存のあさひグループの社屋も借家なのだが、今回も縁あって西側に隣接する建物を応接棟用にお借りすることができ、外装・内装をあさひグループが手掛けさせて頂くことになった。
ちょうどそんな話が出たとき、先月この欄に登場願ったルピシアの水口社長様から、高校時代の同級生だといって早稲田大学理工学部教授の古谷誠章(ふるやのぶあき)先生を紹介された。もともとはコンビニ店舗用として建築され、その後ブティック用に改修された築後15年の建物なのだが、建築当初の古い図面を古谷先生にお渡ししたところ、設計料の見積書と一緒に提示された改築案の図面には、何種類かの奇妙な板塀のパース図が描かれていた。
斬新な板塀のデザインにも驚いたが、設計料の見積額にも驚いた。田舎の会計事務所の内外装のデザイン料としては不釣り合いと思える値段にビックリしてしまい、恥ずかしくも設計料の値引きをお願いしてしまったのだが、幸か不幸か古谷先生の偉業を知ったのは値引きを飲んで頂いた後だった。
古谷教授は、2007年に国内で最も権威のある日本建築学会賞を受賞され、2011年には日本芸術院賞を受賞されている大先生だった。名誉なことに、多分、当グループの応接棟が古谷先生の山形での第1号の作品と思われる。
設計及び設計監理は徹底していた。応接棟としての防音対策、季節ごとの採光のシミュレーション、照度の設定、受付カウンターや事務机のデザイン及び配置、空調・水周りの設計及び機器類の選定、あるいは車道や向かい側の歩道からの目線での景観の検討が進められ、床から天井まであるアルミサッシの窓枠の調達には数カ月を要した。
これらの作業が詳細な実施設計図の下に進められていく。その間に椅子の現物がいくつも運び込まれ、傘立て、コートハンガー、キャビネット、本棚が決められていった。なかでも圧巻は200度以上で熱処理されたサーモウッドを素材とした板塀だろう。いくつかの模型を現地で背景と重ね合わせながら、様々な角度から透視してひとつのデザインが選ばれた。
今回の改装工事を通じて感じたことは、最終的には全てのことが現場で現物を目の前にして決められていくということだった。扉や壁やカーペットの素材や色も、サインの位置やパネルの高さや植栽する草木の種類まで、他人任せにはせずに大先生が現場に足を運び、施主と相談し、施主の反応を推し量りながら、ご自分の感性の下で決定して行くということだった。
「建物の品格は引渡の後から育てられるもの」と言う。サーモウッドの板塀の色調変化とともに、新応接棟が品格をもって山形の景色に溶け込んでいけたら良いと思っている。