旅館百選で31年間連続して日本一の評価を得ている加賀屋が2010年7月に台湾企業と合弁で台湾加賀屋をオープンした。昨年12月の台湾出張の際、台湾加賀屋(正式名称は日勝生加賀屋)の徳光副薫事長の話を聞く機会があった。台湾加賀屋の概要は日本円換算で資本金16億円、総投資額75億円、敷地400坪、客室90室、社員数200名とのことであるが、日本旅館に象徴される日本文化が外国の地に定着できるか否かの実験ともいえる。
旅館の運営は日本と全く同じで、日本料理と客室係を根幹として、客室1室に一人の客室係がつき、台湾人の客室係が着物を着て正座をして、日本語と笑顔でお客様を迎え入れてくれる。客室係は台湾にはない職種ということで給与が高く設定されており、いわばスチュワーデスのようなあこがれの職種となっているようだ。日本人は副薫事長、料理長、客室係の教育担当の3名のみで、社員教育は①お客様優先、②「NO」は言わない、③まず謝る、という日本特有の文化から始めたという。“お辞儀をする”“同時に二つの仕事をしない”“(仕事の)相手を敬う”といった基本的な教育も必要だったようだ。
宿泊料金は2名で7~8万円と台湾の大卒初任給並みとかなり高めで、当初の計画では台湾のお客様が70%、日本からのお客様が20%、その他が10%というものだったが、実際には台湾55%、日本24%、その他21%で、その他に含まれる香港10%、大陸2%は予想外だったという。初年度の業績は若干の赤字で、今年度は黒字が見込めるとのことだった。
話が変わるが、JALの業績が急回復している。2012年3月期の決算予想では売上高11,500億円、営業利益1,400億円と営業利益ではANAの2倍だ。グループで16,000名の人員削減、不採算路線からの撤退や減便、“ジャンボ”など大型機材を手放しての機材使用の効率化等の合理化に加え、円高(1円で20億円のプラス)による収益環境の好転があるものの、何といっても日航社員の意識改革がJALに奇跡の回復をもたらしていると思われる。
今回の台湾旅行の途中、日航の若手幹部と話をする機会があった。そこで、日航は今後、世界最高のサービスを提供する“シンガポール航空”の方向へ進むのか、それとも米国で最も収益率が高い“サウスウエスト航空”の方向に進むのか聞いてみた。その答えは日航は日本文化の“おもてなし”を中心としたサービスで高価格路線を目指すというものだった。
加賀屋もJALもいわば日本文化の輸出を目指しているといえる。確かに日本という国自体、高尚で、繊細で、世界的に見ても独創的で希少価値があり、日本文化は日本人として誇れるものであり輸出に値すると思うのである。