日本 M&A センター竹内直樹社長の講演を聞いた。日本 M&A センターは会計事務所や地域金融機関等のルートを通じ創業以来累計 9,000 件のM&A の支援実績を持つ M&A 仲介業のリーディングカンパニーだ。竹内社長は今年 4 月に 46 歳で日本 M&A センターの社長に就任した。講演の内容を示そう。
会社を成長させる手段は様々だが、即効性があり、高い効果を期待できるのが M&A だ。市場を開拓したり、商品を開発するのには時間が掛かるが、M&A をすれば買収企業の顧客や営業力、あるいは従業員や技術力を一気に手にすることが出来る。M&A とは企業を成長させるための時間を買取ることだと言われるゆえんだ。
一方、会社を売る側から M&A を見てみると大企業が主導とした業界再編の波に乗った従来型の企業売却に対して、2007年以降は団塊の世代が 60 歳台になって経営者がリタイアを視野に入れるようになった頃から、事業承継策としての M&A が急浮上してきた。親族のなかに後継者がいないオーナー経営者は、事業を畳むかどうか選択が迫られるが、社員の中から後継者を選ぼうとしても一社員としては株を買い取る資力がないケースがほとんどだ。
そこで登場したのが事業承継問題を鮮やかに解決する手段としての M&A だった。こうして M&A は市民権を得て急速に社会に浸透していった。
ところで竹内社長は、企業には 4 つの機能が必要だと訴える。
➀価値提供…販売やサービスを提供する機能
➁価値創造…製品やサービスを創出する機能
➂価値基盤…人材、資金、物流などビジネスの基盤を確保する機能
➃価値情報…市場情報を集積し分析する機能
これら 4 つの機能をすべて自社でカバーするのか、あるいは他社が持つ機能を利用するのか、それはそれぞれの企業の経営戦略次第だ。
これまでの産業構造は➀製造業、➁小売・サービス業、➂卸・中間業、➃産業基盤分野(運送、金融、通信など)➄専門分野(士業、コンサルタント等)の 5 つの分野に分かれていたが、今やこれらの業種間の壁がなくなり、小売業がモノ作りに進出したり、製造業が直販したりなど業界の垣根が取り払われており、産業構造の変革が起こっている。
とことんニッチの分野を深耕する戦略もあるが、規模を追求するなら前段の 4 つの機能の獲得が急務だ。つまり、メーカーは販売機能を持つ、小売業は商品開発・生産機能を持つといった「多機能化」が必要だ。これからの時代は同じ業界内のM&A ではなく、例えばメーカーなら小売業と組んで消費者と直接つながったり、IT 企業と組んでIOT の取り組みを始めたりと、異なる業種・産業と組んで多機能化を実現する越境型の M&A によって総力戦で戦う時代になってきている。
このような状況の中で中堅・中小企業は、同じ業界内の再編型事業展開ではなく、すでに越境している大企業や自社が加わることで、越境が可能となるパートナーと組むことで自社も越境のチャンスをつかもうとしている。つまり、少子高齢化による労働力不足とも相まって、企業を「買って」規模を大きくして成長を図るのではなく、自社を大手企業に「売って」、例えば営業の全国展開や輸出機能を獲得し、あるいは優秀な人材を確保して自社の更なる発展を図るという「成長戦略型M&A」に潮流は変わりつつある。
自社の課題を解決出来る会社に株式を譲渡して成長の起爆剤にする。すでにいま全国にそんな会社があふれ出ている。しかも、自社株式の譲渡先をファンドにする例も増えている。ファンドは販売機能や生産機能は持っていないものの各方面に顔がきき、豊かな人材リソースを持っているので経営者はじめ、マーケティングや生産管理等のエキスパートを取りそろえることが可能だ。