無 償 の 愛(2025年_6月号)

東井義男「いのち」の教え」』(佼成出版社)の中にこんな話がある。(日本講演新聞 2025.1.20 号)

今、日本社会は公共マナーや清潔さ、親切心(財布を落としても返ってくる等)で世界中から注目を浴びている。英国の公共放送局である BBC は日本社会の異様な完成度について特番を組み、フランスでは若者を中心に日本への移住希望者が殺到しているという。

ハーバード大学のジェームズ・ウィンストン教授は世界の 12 ヵ国を比較し、日本の道路や街にはゴミがほとんど落ちておらず、電車内や街中の静けさや日本社会の日常的な親切心は個人的な行動だけではなく、社会全体の規範や構造によって支えられていると分析している。「日本社会は整いすぎていて、静かすぎて、あまりにも美しい。」と述べ、「その完成度に恐怖を覚えるほどだ」という。そして私は、これら日本的事象の根源にある他者への「優しさ」は、進君が感じた日本中にあふれる母親を始めとする沢山の人たちの「無償の愛」を源としているのだと思うのである。

それはトランプ氏の “ディール” とは対極にある概念だ。戦後 80 年間、米国は絶大な経済力、技術力、軍事力を背景に西側諸国の軍事費を肩代わりし、自由貿易を推し進め、技術を供与し、自由と民主主義という理念で各国をひき付けて国際秩序を築き上げてきた。それが今、米国の国力低下に起因するのだが、トランプ氏は「米国第一」を掲げて同盟国に関税で脅しをかけ、人道援助を行う国の機関を解体し、米国を要塞国家にしようとしている。要塞国家とは経済、軍事、文化だけでなく物理的にも高い壁で守られ、国々は他国との協力ではなくそれぞれの国内で安定と平和を追求すればよいという考え方だ。トランプ氏にとって国際関係においては正義や道徳、国際法は考慮に値しない。重要なのは力だ。弱者は強者のいかなる要求にも従えばよい。それが「平和」だというのだ。

一方、親日家でもあるジョセフ・ナイ ハーバード大学名誉教授(残念ながら先日亡くなってしまったのだが)は「パワー(権力)とは他者を自分が望むように動かす能力だ」と定義して➀威嚇による強制、➁金銭的報酬、➂魅力(文化、社会の状況、政策・外交など)の 3 つの要素を上げ、➂の他者を魅了することによって世の中を動かすソフトパワー理論を提唱している。

ハードパワーを信奉し “ディール” で物事を解決しようとするトランプ氏、長い歴史に育まれたソフトパワーが世界を魅了する日本、一体どちらの国が世界に影響を与え生き残っていくのだろうか。

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