盛和塾が残したもの(2020年_1月号)


 
 稲盛和夫京セラ名誉会長が主導し、世界に104塾14,938名の経営者を塾生として擁する世界最大の経営塾である盛和塾が2019年12月末をもって解散した。
 稲盛塾長が中堅・中小企業の経営者である塾生に残した功績は大きい。生きた学問である経営を本当に分かっている経営者などほとんどいない。また、分かったとしても実践するのはもっと難しい。稲盛経営の神髄は経営を哲学の実践の場として捉えたことだろう。

 あさひ会計では『心を高める 経営を伸ばす』(稲盛和夫著、PHP文庫)を朝礼で10年来輪読を続け何回も読み返しているが、そこには人としての生き方や考え方、ものの見方、若者への教訓、上司や部下としての心構え、経営者としての姿勢など、いわば稲盛哲学が具体的な日常の事例で語られており、毎朝、新鮮な心の震えを覚えている。

 稲盛和夫京セラ名誉会長は経営に哲学を持ち込んだ最初の経営者だ。稲盛哲学あるいは京セラフィロソフィの根幹は「会社は従業員を幸せにするためにある」ということを明言し、理念化したことだろう。経営者と従業員は同志であり、家族のような関係であるべきだというのが稲盛塾長の考え方だ。その中で経営者は「人として何が正しいかを基準にして経営する」、「誰にも負けない努力をする」、「利他の心を持つ」といった道徳的価値観をベースにした経営をすべきだというのである。特に経営の極意は「利他の心」であり、動機が善で私心がないことが成功の絶対条件だというのである。稲盛塾長は「企業経営は哲学で九分九厘決まる。学んだ哲学を実践すれば業績は上がる」と断言する。
 とはいえ頭では分かっても行動が伴わないのが人間である。人は利己と利他を行ったり来たりしながら成長するのだろう。稲盛塾長が寝る前にその日の行動を振り返り「神様、ごめん」と自身を戒める習慣を続けていることはよく知られている。「謙虚にして決して奢らず」これもまた稲盛哲学である。
 
一方、盛和塾では数字についても徹底追及することを教えられた。従業員と一体となって経営をするためには個人の給料以外のデータは従業員に公開すべしというのが稲盛塾長の考え方だ。こうすれば従業員は「会社は自分たちのものだ」という意識を持つことになる。京セラではアメーバ経営と称し部門別損益計算を実施し、部門の構成員は全員で日々の採算を管理し、「売上最大、経費最小」を徹底追及するという。

 盛和塾では稲盛塾長はすべての塾生に営業利益率10%を課す。利益が10%出ない様では経営とは言わないと一刀両断だ。しかし、不思議なことに次から次へと塾生の企業は営業利益率10%を達成していくのである。 

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。