社 員 第 一 主 義(2023年_8月号)

「社員第一でなければ、顧客も株主も幸せにできない」と『社員ファースト経営』の著者、白川克氏は言う。白川氏はケンブリッジ・テクロノジー・パートナーズというコンサルティング会社の副社長であるが、『社員ファースト経営』は私がこれまで主張してきた方向と重なっており、かつ内容が具体的で深く、参考になる点が大いにあった。

アメリカ流の株主資本主義では「重要なのはまず株主。次に顧客。最後に社員。」なのだが、社員ファースト経営では「社員を大切にすれば社員は顧客に良いサービスを提供し、良いサービスを受けた顧客は会社に利益をもたらし、結果として株主にも利益を還元できる。」と全く逆の発想だ。

といって社員ファースト経営は社員に甘い温情主義ではない。人事評価は厳格で、社員に委ねられている裁量が大きく、指示待ち型社員にとっては居心地が悪い会社だという。「会社は社員第一主義」「社員は顧客第一主義」が経営の両輪だ。

社員の幸せを真っ先に考える、だから顧客に質の高いサービスを提供でき、結果として株主にもメリットをもたらすという一石三鳥の狙いだが、社員が幸せになる為の仕組みが数多く構築されているので、 いくつかの事例を紹介しよう。

<仕事を楽しめる仕掛けを作る>
仕事は本質的にツラく、厳しいものだ。だからこそ、楽しみながらやろうという話だ。白川氏の会社(ケンブリッジ)で「どんな時に仕事に楽しさを感じる」いうアンケートを取ったところ「一体感」「貢献感」「疾走感」「達成感」「成長感」といろいろな意見が出たそうだ。これらの要素はやらされ仕事としてイヤイヤやっている人には期待できない。仕事の楽しさは与えられるものではなく、社員一人一人が見出すものなのだ。だから会社は「仕事を楽しむ」ことを奨励し、上司は社員が楽し気な発案をしたときに潰さないことが重要だ。上司が仕事を楽しむことを率先し「仕事を楽しむ社風」を作る必要がある。

<仕事を選ぶ>
「やりがいのある仕事を与えなければ、優秀な社員ほど辞めてしまう」ことに日本の企業は鈍感だと白川氏は指摘する。例えばケンブリッジではやりがいのある仕事を確保するために、逆に「決して受注しない仕事のリスト」を定めている。

<社員は顧客ファースト>
ケンブリッジでは特段、顧客ファーストの教育はしていない。それでいて社員が顧客ファーストなのは「価値観」を掲げ、「行動規範」示しているからではないかと白川氏は推察している。例えば「『お客様にとって、これがベストだ』と胸を張れることだけをする。」というミッションなどがそうだ。そして上司がそれを体現していることが何より重要だ。社員ファーストと顧客ファーストとは矛盾するように見えるが、当然として「会社は、最終的には顧客より社員を大切にする。」

<ファシリテーションで経営する>
ファシリテーション経営とは意思決定を社長などの “長” が下すのではなく、関係者で徹底的に議論し、コンセンサスを作ることにこだわる組織運営のスタイルだ。「誰が言ったか?」より「良い意見か?」が重要。コンセンサスを重視した組織運営を続けると組織がフラットでオープンになり、社員が活き活きと仕事をするようになる。

<自分の会社は自分で創る>
「会社は経営者が創るのではない。創りたい人が創るもの」というのがケンブリッジの経営方針だ。各種のイベントはやりたい社員が持ち回りで幹事になる。なかでも年1回1泊2日の全員オフサイトミーティングは「会社の未来を考える場」だ。幹事団は毎年「今のオレ達に足りないものは?」「どういう未来の描き方をしたらワクワクする?」などを真剣に考えテーマや議題を決める。オフィス移転や新規事業につながったり、会社の方向性や経営方針を変える土台になる場合もある。

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