神は細部に宿る。(2020年_3月号)

 

 8年前、化粧品容器組立製造会社のY社長に最初に出会った場面は忘れられない。
 ある方の紹介により工場を訪問すると、一人で駐車場に水を撒く、長身のパンチパーマのY社長がいた。経験上、会社の入口に立った瞬間に業績の良し悪しがわかることは少なくないが、その日は、入口に向かう前に感じたことを覚えている。夕方遅くない時間だが、もうみんな仕事を終えて帰っており、すべて配送を終えた後にY社長が駐車場を掃除していた。「ちょっと待ってて」という言葉のあとが忘れられない場面だ。日常として、何気なくやっているY社長のホースの片付けであろうが、その巻き方がとても丁寧でスムーズであり、綺麗なとぐろ巻きの乱れの無い真円のホースを見ていると、パンチパーマとのギャップで何かすごいところに来た気がした。
 その後会社の応接室での話も印象的だった。品質に対するこだわりや工場の清潔さを保つための各種取組、段取りと仕事終わりの確認、納品スピードなど、仕事に対する自負を聞かせてもらった。ひと昔前は、単価の安い組立依頼が来た際、発注担当者立会いのもとストップウォッチで時間を計らせ、その単価で出来るかを直接確認させていたそうだ。
 そのような手間を加えて生み出した交渉方法にも、中小企業の戦い方のお手本になるものがある。
 その後、税務顧問を頂くことになり、4社を経営するY社長のグループでは、投資に係る各種の優遇税制を10件ほど適用申請し、優遇税制活用実績は、あさひ会計のお客様の中でもNO.1だ。裏を返すと、それだけ設備投資を行い、またそれを裏付ける業績の積み重ねがあり、グループ企業が生み出す雇用や地域社会への貢献は多大だ。

 先日、Y社長のグループ企業の新工場竣工式典に招かれた。今回の新工場内覧でも初めて見るものがあった。工場壁面下の隅にはほこりがたまりやすくなるが、壁面と床の間をなめらかなカーブにする金具が壁面と床に沿ってぴったりとついている。隅を切って、ほこりがたまらないようにするためとのことである。
 「神は細部に宿る」という言葉は、作品に対して妥協しない細部へのこだわりが全体を作るという意味であるが、工場床と壁面に隅をつくらない金具は、工場の内にほこりを残さないという、品質に対する強いこだわりの表れだ。部分は全体を表す。経営者の部分的こだわりが、事業の発展を支える。

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