電子行政で世界最先端を行く IT 国家エストニアを訪問してきた。そもそもエストニアに興味を持ったのは「エストニアでは毎年 1 月末頃になると納税者のもとに政府からメールが届き、あなたの昨年の収入は〇〇€、医療費控除は〇〇€、その他の控除は〇〇€、従って所得は〇〇€、所得税は〇〇€です。あなたの口座からの引落はいついつですと告げてくる。異存が無ければデジタル署名をして返信し、確定申告と納税手続きは終わり。」
という話を何かで読んだからだ。その後、大前研一さんが講演で「エストニアでは税理士の職は消滅した。」といっているのを聞いて、これはただ事ではないと注目していたのだが、コロナが収束したこの時期に訪問する機会がめぐってきた。
そもそもエストニアという国だが、バルト海に面したバルト 3 国のひとつで、人口 133 万人、国土面積は九州 + 沖縄ほど、国土の 51 % が森林という経済規模で日本の約 100 分の 1 の小国だ。13世紀ごろからデンマーク、ドイツ、スウェーデン、ロシアなどの大国に支配され、1918 年に独立したものの 1940 年にソ連に占領され、その後ナチスの支配、ソ連による再占領を経て 1991 年ソビエト連邦崩壊により独立を回復したという小国の悲哀を散々なめてきた国だ。
エストニアに着くと通訳が開口一番「隣の隣の国からようこそ」「真ん中に怖い国がありますが」という。彼らにとって日本は近い国らしい。帰国はバルト海をフェリーで渡りフィンランドを経由したのだが、お土産は “GEISHA” が良いと教えられた。フィンランドも大国から幾多の戦争を仕掛けられ領土が割譲された経験を持つ国だが、日露戦争で東の小国日本がロシアに勝利したことを喜び “TOGO” というビールや “GEISHA” というお菓子を作ったのが今に残っているのだという。
さて話を戻すがエストニアは再独立当初、何の資源も産業もない貧乏国だったので、政府は ITとバイオテックに資本を集中していくことに決定、学校などでは屋根の修理よりパソコンの導入を優先したという。こうして民間企業による無料のインターネット教育、Wi-Fi の無料化、自宅からのインターネット投票など情報社会を発展させてきた。その結果、すべての行政手続きはオンライン化され、紙ベースなのは「離婚届」だけになったという。何故、離婚届だけが紙なのか不思議に思ったのだが、「冷静に考える時間が必要だからでしょう。」とはあさひ会計女性陣の見解だ。素晴らしい(笑)。
今、エストニアの IT 等のスタートアップ企業(革新的なアイデアで急成長を狙う創業 3 年未満の企業)は 1500 社を超え、ユニコーン企業(設立 10年以内で時価評価額 10 億ドル以上)は 10 社と人口当たりでは欧州トップだ。丸紅出身のエストニア松村之彦特命大使と会談する機会を得たのだが、大使は「エストニアには行政・医療・教育サービスのソリューションを持っている会社が沢山ある。日本の地方の自治体から是非訪問してほしい」と要望していた。
ところで本題の「エストニアから税理士は本当に消滅したのだろうか。」松村大使も分からないとのことだったが、法人向けの税理士は少し残っているらしい。税理士が存在しなくなった理由は以下のとおりだ。(S/D 木原税理士法人)
(1) 政府の電子化政策・・・分散型データべースをつなぐ安全なデータ交換プラットホームが構築されており、国民の預金残高まで把握可能だ。
(2) 税制が非常に簡素・・・税率は所得税も、法人税も、消費税もすべて 20 % であり、法人は配当を出す場合のみ課税される。相続税は原則としてない。
また、医療分野においてもすべてのカルテは電子化されて蓄積されており、医者は患者の病歴や治療歴、薬歴を見ることができる。これらの仕組みを支えるのは、国民の国への信頼と利便性だ。
今後、日本におけるガバナンスのデジタル化はマイナカードの義務化が鍵となる。