中国がWTO(自由貿易推進を目的とする国際機関)に加盟すれば中国自身が大きく変わるだろうと期待して、中途半端なまま中国をWTOに加盟させたことが齟齬の始まりだ。自由貿易は市場経済が基盤であり、その前提として民主主義が根付いていなければ自由貿易は根本から揺らいでしまう。
中国は先進国に追いつくための初期段階で種々の優遇政策によって外国企業の直接投資を誘致し、同時に誘致企業には外貨バランスを図るため製品輸出を義務付けた。中国にとって外国企業の誘致は資本のみならず、優れた技術と経営ノウハウを国内に持ち込み、経済発展の近道となった。基幹産業については外国メーカーの中国進出に際して中国メーカー(ほとんど国有企業)との合弁を条件に付ける等、地場企業は外国企業から技術移転を受け、わずか40年で「世界の工場」となり、いまや遠くない将来にアメリカを抜いて世界一の先進国になるとまで言われている。
もともと中国人は、中国が世界の中心であるという民族意識“中華思想”を強く持っており、現在、習近平政権は新たな産業振興計画「中国製造2025」を掲げ、政府が基幹産業を重点的に育成して、先端分野での世界の覇権を目指している。そのためにも中国企業は外国企業からなりふり構わず技術を手に入れようとしている。これに対する警戒心こそが、今回の米中戦争の背景となっている。
中国がこれまで経済発展を続けてこられたのは、知的財産権の侵害、自国企業への補助金、外国企業への参入障壁といった国際ルールを無視した不正常な側面を世界の指導者が黙認してきたからだ。しかし、トランプは中国の不公正な貿易と敢然と戦おうとしている。トランプの中国に対する主張はこうだ。
① 4,000億ドルに達する貿易赤字を縮小しろ
② アメリカは安全保障上、鉄鋼・アルミ等の自国産業を保護する
③ 中国は市場を開放して、輸入を増やせ
④ 中国は知的財産権の保護を徹底し、国営企業への補助金等の市場歪曲的な政策を撤廃しろ
米国は7月6日第1弾としてハイテク分野を含む818品目(340億ドル)に25%の追加関税を課した。中国も黙ってはいない。米国からの輸入品545品目(340億ドル相当)追加関税を課す方針を発動した。米国はさらに第3弾として2,000億ドル分の輸入品に制裁課税を課する構えだ。中国も報復課税を課す考えだが、米国の中国からの輸入額は約5,000億ドル、一方、中国の米国からの輸入額は約1,300億ドルと圧倒的に少ない。米中貿易戦争は米国の完勝になる可能性が高い。トランプは従来の常識や手法を無視して誤解されやすいが政治的取り組みは意外にまともだ。