仙台事務所 税理士 松田 茂
「兄が早めに準備をしていなかったら、うちの会社は廃業していました。素敵なご縁をいただくことができ、社員たちを守ることが出来ます。本当にありがとうございます。」
これは、私が参加したM&Aの勉強会に参加した際に伺った、譲渡企業の社長の妹様から譲受企業の社長に向けての感謝の言葉です。
【M&Aまでの経緯】
譲渡企業は先代から長く続いている中堅企業。代表取締役であったA社長はまだ50代前半、若干体調に不安を抱えており、定期的に通院しながら経営を切り盛りしていました。
親族や従業員に後継者になりそうな人がおらず、「まだ考えるには少し早いかな?」と思いながらも顧問税理士にM&Aの相談をしました。
他の会社から後継者となりそうな方を迎え入れることも検討しましたが、株式の承継が困難であること、連帯保証の負担が大きいことを理由に、第三者承継(M&A)を選択肢の一つとして早めの準備を進めることになりました。
【予期せぬ事態】
相談をしてから半年後、「事業拡大のために同業でM&Aを考えている企業との連携」を模索している地場の同業者が見つかりました。
社長は、「せっかくのお話だから、まずは会ってみようか」とのことで、2週間後にトップ面談(お見合い)をすることとなりました。
ところがトップ面談の2日前、社長は持病で急逝してしまい、トップ面談は中止。
社長は体調に不安を抱えてはいたものの、命の危機がある状況では無く、前日も電話をしていつも通りの元気な声で話していたそうです。
【会社を残さなければ】
社長の妹が唯一の相続人でしたが、事業には全く携わっていない状況にあり、会社を今後どうしていくか社長の妹は途方に暮れていました。
そんな折、顧問税理士よりA社長がM&Aの検討を進め、トップ面談を予定していたことを伝えると社長の妹は「父親と兄が命を懸けて守ってきた会社です。何とか残していきたい。お相手と面談させてください。」と涙ながらに訴えました。そこからは急ピッチで進んで行き、トップ面談から買収監査、細かな条件調整などを約2週間で実施。
M&Aの成約式は、社長が亡くなってからちょうど1か月後に行われました。
その成約式で涙ながらに話されたのが、冒頭のスピーチです。
【人生は何があるか分からない】
今回は、社長は「少し早いかな?」と思うタイミングから準備を進めていたため、会社を存続させることが出来たと思います。
もしそうでなければ、廃業していたかもしれません。人生は何があるか分かりません。企業の継続・発展のため、あらゆる可能性を考えて、早めに対策していくことが大切であると気付かせてくれたエピソードです。