「①何もかもやろうとすると、何もかも出来なくなる。②完全にやろうとすると、時間が幾らあっても足りない」
これは先月号に続く一倉定氏の言葉であるが、現実に仕事を遂行しようとするとき、限られた時間の中で何もかもやろうとしたり、完全にやろうと思うこと自体が不合理、不効率を招くということを示唆している。つまり“重点主義に徹せよ”と説いているのである。どうしてもしなければならない重点事項だけに力を注ぐことが肝要であり、目的を達成しようとすれば、必然的に重点主義にならざるを得ないのだ。
経営者が経営管理を行う場合においても、重点主義は重要だ。
①最重要課題を絞り込み(例えば、売上高の確保)、②課題の具体的内容を抽出し(新規取引先の開拓5社)、③達成水準を定め(採算の合わない取引はしない)、④役割分担を決め(統括責任者:社長、業務執行責任者:工場長)、⑤行動計画を立案し(紹介等により新規予定先10社をリストアップし、月4社を訪問)、⑥タイムスケジュールを策定する(来年3月までに新規取引先5社と取引)という経営管理活動計画を策定したとしよう。
①の最重要課題の件数は中小企業の場合多くとも3件までと言われており、多すぎると手が回らなくなる。最重要課題を絞り込めるか否かが経営者としての能力の第1歩となる。②の課題の具体的内容は数値目標にまで落とし込むことがポイントだ。③の達成水準は重要な概念である。例えば時計を作る場合、年差1秒を目指すのか、月差1秒を目指すのかではアプローチが全く違い、コストも雲泥の差だ。私たちは必要もないのに完全なものを追求しようとする。重点を絞る必要がある。④の役割分担では実施者とレビュワーとの組合せが重要だ。⑤、⑥では行動計画をタイムスケジュール表に載せることが必定となる。
<あさひ会計の重点主義>
あさひ会計では仕事の目的を「経営者の皆様に有用な情報を提供すること」と定めている。
具体的には①情報の鮮度を重視し、月次試算表であれば翌月以内に、決算書であれば期末から40日以内に提供することを目標としている。もう一つは②正確な情報を提供することであるが、絶対的な真実性を提供しようとはしていない。経営者の皆様が経営判断を誤らないレベルの相対的真実性の提供を達成水準としている。全ての取引について不正、誤謬による虚偽の会計処理がないかを発見しようとすれば膨大な時間、経費が掛かってしまう。監査は試査を前提としており、精査を実施してはいない。
とはいえ重要な取引の処理に誤りがあっては責任を果たしたことにはならないので、担当者の仕事については上司や審査部の二重チェック体制を敷いている。