株式会社旭ブレインズ M&Aシニアエキスパート 川口 潤
“M&A“という言葉を最近よく耳にしますが、どうもネガティブな意味で使われることが多いようです。しかし、“M&A“は会社の買い手が勝ち組で会社の売り手が負け組ではありません。M&Aとはいわば会社同士の結婚です。いかにイケメンでも「結婚してやる」という姿勢では女性がついていかないのと同じで、買い手が「お前の会社買ってやる」という姿勢では契約は絶対に成立しません。つまりM&Aは買い手と売り手の双方が気に入り、双方にメリットのあるWin Winの関係を目指すものなのです。
では、売り手のメリットとはなにか?
代表的なものとして「事業承継問題の解決」「会社(事業)の存続」「創業者利潤」があります。
経営者にご子息(ご息女)がいない場合や、仮にいたとしてもその本人の意思や能力の問題で会社を継がせられない時にはM&Aは有効な手段です。そして、優秀な幹部に会社を継がせようにも、その幹部を後継者にすることは簡単ではありません。なぜなら、幹部が個人保証を嫌がる場合、嫌がらなくても保証能力が無く融資を受けられないため株式を買い取れないなどの問題があるからです。そのような時にもM&Aで会社を売却することが事業承継問題の解決になります。
また、M&Aは原則として会社の経営権が移るだけで事業(従業員、顧客、取引先も含まれる)はそのまま引き継がれるため、従業員の雇用が維持され、取引先や顧客にも迷惑をかけずに、自ら築き上げてきた会社を存続させることができます。地域経済と地域雇用を守ることができるのです。
そして、廃業(清算)と比べてM&Aは多くの創業者利潤を得ることができます。廃業の場合、在庫や土地、建物、機械などの会社資産の処分価格は低くなることがほとんどで、清算後の手取り額は帳簿上の純資産価額を大幅に下回ります。一方で、中小企業のM&Aでは純資産価額に営業権(税引後利益の3年~5年分)をつけた額が”会社の値段”の目安となることが多く、廃業に比べて有利であることがほとんどです。
2014年版「中小企業白書」によると事業承継の時期を3年より先のことと考えている方は60歳代で8割を超えています。しかし、M&Aは相手探しを始めてから数年かかることが珍しくありません。つまり、3年経ってから行動を起こしても遅いのです。
経営者として最後にふさわしい花道を飾るため、ハッピーリタイアを実現するために、事業を誰に承継するか早めの検討と決断が大切です。