経済産業省によれば、2020年ごろから団塊の世代の引退時期が到来し、そのうち約半数の企業の後継者が決まっておらず、このまま放置すると日本の企業の3分の1に当たる127万社が廃業の危機を迎え、雇用で650万人、GDPで22兆円が消滅してしまうという。
しかも、廃業する企業の約50%は経常黒字だという。後を継ぐ者がいないため、やむを得ず廃業を選ぶ経営者が増えているのだが、経営者側からいえば、「廃業するなら黒字のうちに」と考えるのは当然だ。赤字になってしまってからでは、社員に退職金も出せず、銀行の借入金も残り、仕入先に未払債務を残すことになり、最悪の場合は経営者自身も自己破産せざるを得なくなってしまうのだから、黒字のうちに誰にも迷惑を掛けず会社を畳みたいと思うのは経営者として極めて賢明な考えだ。
それにしても何10万社もの黒字企業を廃業に追い込むということは日本国としても勿体無い話だ。あの「赤ちゃんも痛くない極細の注射針」をはじめ、精密深絞り技術で数々の世界に誇る製品を開発した従業員3名、年商8億円、30もの特許を持つ岡野雅行社長率いる東京都の岡野工業も後継者がおらず廃業を選んだ。廃業を目前にしている企業群には、岡野工業のような日本に唯一の技術やサービスを誇る中小企業が多く含まれているのだ。
先日、「アンドビズ」という会社の設立記念式典に出席してきた。この会社は、到来するであろう大廃業時代に備え、小規模事業者(製造業で従業員20人以下、商業・サービス業で従業員5名以下)を対象に、インターネットを使って事業の引継ぎをする相手を低コストで探し、事業のバトンタッチを実現しようとする会社である。そのネットワーク網は全国75の金融機関、732の会計事務所、16のその他士業であり、ここからの情報をもとに譲渡側の企業と譲受側の企業とをマッチングして出来る限り廃業をなくし、日本経済の特に地方経済の活性化を図ることを意図している。
数年ぶりにかつてなじみだったラーメン屋に行ったら若い男が取り仕切っていて、「ほう、息子か?親父は元気か?」と声をかけたら「いや。他人です。親父さんは引退しました。」と返事が返ってきたという実話があるが、いまや後継者は他人でもかまわないという時代になりつつある。
日本の開業率、廃業率はともに4%程度だが、他の先進国の10%に比べると半分以下でそれだけ日本経済の新陳代謝が少ないということになる。アンドビズ(株)は新規開業を目指す若手起業家と後継者のいない高年齢の経営者を結ぶ役割を果たそうとしており、事業のバトンタッチを数多く実現して日本経済の活力の維持に貢献しようとしている。