『戦争はいかに終結したか』(中公新書)で石橋湛山賞を受賞した千々和泰明氏(防衛省防衛研究所)の講演を聞いた。ロシア軍によるウクライナ侵攻から 1年が経つが、この宣戦布告なき戦争は、プーチンの短期決戦の思惑が外れたことにより着地点が見えない膠着状態に陥っている。戦争を開始するのは簡単だが、終わらせるのは容易ではない。ウクライナ問題は、台湾有事の怖れをかかえる日本にとっても対岸の火事では済まされないだろう。
千々和氏によれば、戦争終結のポイントは「将来の危険」と「現在の犠牲」とのバランスだという。
⑴ 将来の危険>現在の犠牲であれば、現時点でどんな犠牲を払っても「紛争原因の根本的解決」を図らなければならない。第二次世界大戦では、ナチズムの存続による将来的危険性は如何なる犠牲を払っても徹底的に打ちのめさなければならず、「根本的解決」に突き進んだ。
⑵ 将来の危険<現在の犠牲であれば、「妥協的和平」を図り「現在の犠牲」を回避するだろう。朝鮮戦争においては、朝鮮半島北部の共産化が重要同盟国(韓国や日本)にただちに波及したり、アメリカ本土が共産側の脅威に直接さらされる危険はなく、中国やソ連との全面対決による犠牲の甚大化をおそれたアメリカは、当時の韓国大統領李承晩の反対を押し切って韓国による朝鮮統一を断念して 38 度線での休戦協定による「妥協的和平」を選択した。
先の大戦で日本は、ポツダム宣言を受諾して無条件降伏し、「紛争原因の根本的解決」の極に近い戦争の終結となったが、アメリカはヨーロッパにおいて大量の血が流されたこともあって日本本土戦を避けたかったこと、及びソ連を排除したかったこともあって無条件降伏政策を修正した。この時点では「将来の危険」≒「現在の犠牲」だったと千々和氏はみている。
さて、ロシア・ウクライナ戦争の今後の行末だが
〇「紛争の根本的解決」・・・ロシアによるウクライナの完全属国化は、ウクライナの抵抗と西側の支援により失敗した。といって現実的にはウクライナがロシアを攻め滅ぼすことは考えらないため、収拾が付かずに混乱が長期化することが見込まれる。
〇「妥協的和平」・・・➀ロシア軍のウクライナからの完全撤退・領土回復。その為にはウクライナの軍事的勝利が必要だが、専制国家である限りロシアはウクライナからの完全撤退の決断ができないだろう。核兵器使用の懸念も残る。➁東部・南部の4 州をロシアに併合してウクライナの主権排除。
いわゆる「冬戦争」型(1939 年ソ連がフィンランドに侵攻。フィンランドは独立を守ったものの、講和条約により領土の一部が割譲された。)の和平には、ウクライナも西側も納得しない。➂2/24 以前の状態になればウクライナは OK か。ゼレンスキー大統領も以前は 2/24 ラインを目標にしていたが、その後クリミア半島を含む完全撤退を主張。
朝鮮戦争では 38 度線が落としどころになったが、今般の戦争で2/24ラインは落としどころになるのか。
台湾有事が起きてしまったら、どう終結させるかが難解だ。核を持っている大国中国に対して「根本的解決」はなく、「妥協的和平」を図るしかない。
中国に妥協してもらうには日本はどこまで譲歩できるのか、どこまで耐えられるのか?日・米・台湾が劣勢であれば厳しい結果となる。まずは中国の台湾進攻を起こさせないことが最重要だ。
ウクライナとロシアとでは人口・経済力・軍事力で圧倒的な差があるにもかかわらず、西側の支援があるとはいえウクライナは善戦している。それはウクライナにとっては祖国防衛戦争であり、国民の大多数がロシアを追い出すまでやる覚悟なのに対し、ロシアの国民にとっては何のための戦争なのか目的や価値観が共有されていないためだ。
さて、日本人の何%が祖国防衛を支えるのだろう。