スペシャリストとジェネラリスト(2020年_2月号)


 
 スペシャリストとは特定分野の専門家、ジェネラリストとは分野をまたいで知識・技術・経験を持つ人と定義付けられる。
 日本では特に官公庁や大企業で終身雇用、年功序列制度のもとに総合的判断力を高めるため部署間の異動を定期的におこなってジェネラリストを養成し、一方、転職が当たり前な海外では常に自分の強みをアピールしなければならないためスペシャリスト志向が強いようだ。

 第二次世界大戦時の旧帝国陸海軍の意思決定のあり方や組織論をケーススタディで分析した名著『失敗の本質』(野中郁次郎ほか著)によれば、日露戦争を率いた総司令官クラスは武士の末裔で、論語、孟子、史記等の中国哲学書、歴史書を読みあさり指導者はどうあらねばならないのかを身につけたジェネラリストだったのに対し、第二次世界大戦時のリーダーは近代軍事教育を受けたスペシャリストの中堅幕僚、青年将校たちであったが為に、例えば、大砲で決着をつける戦争から飛行機で船を沈める空母を主体とする戦争に変革していたにもかかわらず、大鑑巨砲の戦艦大和に頼ってしまうという愚を犯してしまったというのである。いわば日露戦争から第二次世界大戦までの間に指導層の変質があり、ジェネラリストが仕切っていた時代から徐々にスペシャリスト中心の時代になっていったのが「失敗の本質」だというのだ。

 それでは経営者はスペシャリストであるべきなのか?それともジェネラリストであるべきなのだろうか?もともと中小企業の経営者は、技術とか、営業とか、財務とかに秀でたスペシャリストだった方が独立して経営者となり、時代を経てジェネラリストになっていった方が多いと思われる。
 生物学的にはスペシャリストの絶滅率はジェネラリストの絶滅率を大きく上回っており、時代の流れや環境の変化に対応できるのはジェネラリストということになるのだが、「ジェネラリストであり続ける」ことは至難の業らしい。ジェネラリストは時代の変化に応じて常に自らの鮮度を高くし柔軟に変化させていく必要があるからだ。
 真のジェネラリストとは鮮度の高い、幅広い知識・技術・経験を保有しているだけではなく、それらを道具として用いて人々の考え方を変え、組織を変革し、課題を解決し、時代を変革していくことのできる人たちということが出来よう。一方、ジェネラリストの判断業務はAIが担えるようになり、むしろ専門性の高い分野で高度な業務を行えるスペシャリストの需要が高まってきている。

 結論的には、経営者はスペシャリストとしての軸を持ちながら、広い分野の知見を持ち、状況の変化に臨機応変に対応できるジェネラリストとなるのが理想といえるのだろう。

 

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