特定社会保険労務士 今野 佳世子
国民年金保険料の納付率が58.8%(平成25年4月~12月)と低いのは、経済的苦境により負担できない人が多いというだけではなく、年金制度への不信が大きな原因であると思われます。年金というと老齢年金のイメージが強く、「支払った分を取り返せるか」という発想になりがちです。しかし、公的年金制度もまた、保険であることを忘れてはなりません。長生きという「リスク」に備えるのが老齢年金ですが、それ以上に、遺族年金や障害年金の給付は、老齢以上に予測不可能な危機に対応する大切な機能です。
さて、近年、年金を含む公的給付における「男性差別」が解消される動きが顕著であることをご存じでしょうか。
従来、遺族基礎年金は、子のある妻または子にしか支給されませんでした。しかし、平成26年4月以降は、年金機能強化法により、国民年金に加入していた妻が亡くなった場合にも、同条件で子のある夫に遺族基礎年金が支給されることになりました。男女とも、亡くなった方と生計維持関係にあることと、年収が将来にわたり850万円未満であることが要件です。
一方、遺族厚生年金についてはまだ同様の受給要件変更はありません。もともと受給できる遺族の範囲は広く、子のない妻も夫も受給できるのですが、夫だけは妻死亡時に55歳以上でなければ対象外で、しかも60歳まで支給停止です。これは労災保険の遺族年金も同じです。
ところが、平成25年11月25日大阪地裁は、地方公務員の労災保険である地方公務員災害補償法において、受給要件として、配偶者のうち夫についてのみ年齢要件があることは、憲法14条に違反する差別的取り扱いに当たると判断しました。判決は、現行制度が作られた時期と異なり、現在は共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回り、さらに男性が正規職員として安定的に就業しているという前提は崩れているという社会状況の変化に応じて受給要件を見直すべきであると指摘しています。この判決を受け、遺族厚生年金や労災年金の受給要件の見直しが行われるか注目したいところです。
遺族年金は、老齢年金と異なり、給与・賞与との調整がされませんので、60歳台になり働きながら年金を受給する場合に、老齢厚生年金では減額されてしまうところ、遺族年金が受けられれば、年金も給与・賞与も全て受け取ることができます。
そのほか、母子家庭のみが対象だった児童扶養手当が父子家庭にも支給されるようになり(平成22年8月)、労災保険の障害等級上、負傷による傷痕の評価に男女差があったことが解消される(平成23年2月)など、公的給付における男女格差は、男女の働き方や、世帯の生計を構成する収入の多様化を反映して、解消されつつあります。
保険料などの負担については自動的に通知がくることが多い一方で、受け取るものは、知らなければ請求できず損をしてしまいがちです。負担だけではなく、給付についても知識を得ておきたいものです。